VTuber事務所「ホロライブプロダクション」を運営するカバーが立ち上げたゲームブランド「holo Indie」(ブランド運営は子会社のシー・シー・エム・シー )。2023年11月に発表された本ブランドは、ホロライブやホロスターズといったカバーが保有するIPを使用した、ファンによる二次創作ゲームをサポートするために立ち上げられました。
「holo Indie」には、タレントが配信で使用しているネタが数多く盛り込まれている作品や、他のインディーゲーム作品からのインスパイアが見受けられながらも「ホロライブらしい可愛さ」が溢れる作品が多数存在します。(今回インタビューを行った筆者自身も、ゲームに触れる中で、英語圏のコンテンツを中心に、ホロライブタレントの配信や音楽などにどんどんとのめり込んでいった一人)
立ち上げから1年半が経過した今回、この「holo Indie」に携わる金川宗義氏、畠野貴之氏にインタビューを実施。「ホロライブのファンゲームをもっと見たい」というきっかけから始まった「holo Indie」の運営秘話や、スタートしてからのこれまで、そして今後の展望について伺います。

◆きっかけは「ホロライブのファンゲームをもっと見たい」という気持ちから...
──本日はよろしくお願いします。まず初めにお二人は「holo Indie」とどのように関わられてきたのでしょうか?
金川:ゲーム事業開発室の金川宗義と申します。私は(かつて所属していた)湊あくあさんがメインで登場する恋愛アドベンチャーゲーム『あくありうむ。』より、カバーの新規企画立ち上げ業務など担当しています。その中で、新規企画の一つとして「holo Indie」を立ち上げ、現在も事業に携わっています。
畠野:ゲーム事業開発室の畠野貴之と申します。ホロライブのマーケティング/PRを見てきましたが、元々ゲーム業界出身だったのとUGCマーケティング(二次創作コンテンツに関わるマーケティング)を担当することが多く、その一環として「holo Indie」のPR関係の業務やガイドライン制作などに携わるようになりました。実は某巨大同人誌即売会のスタッフも25年以上やっており、公私ともに個人の創作を後押しする活動に関わっています。

──ありがとうございます。そもそも、どういったきっかけで「holo Indie」というプロジェクトが立ち上がったのでしょうか?
金川:プロジェクトの発端は、僕たちの「ホロライブのファンゲームをもっと見たい」という気持ちがきっかけです。
ホロライブのファンゲームをさらに盛り上げていくため、僕たちに何ができるかと考えた際に、ホロライブが二次創作のゲームを後押しし、開発者とユーザーを結ぶ仕組みづくりやサポートであれば会社としてもできるのではないかと思い立ち、プロジェクトが始動しました。
ホロライブのタレントが活躍するファンゲームがより多くのユーザーの手に届くことは、さらに多くの開発者に「ホロライブのファンゲーム開発に興味を持ってもらえる」という当初の我々の願いが叶うだけでなく、普段ゲーム配信を行うホロライブのタレントや、カバーにとっても嬉しい、そしてメリットのあるプロジェクトになります。
◆ゲームから二次創作文化全体を後押しするプロジェクト
──なるほど。となると、「holo Indie」というプロジェクトは、インディーゲームの中でも「ファンゲーム」に注力しているのですか?
金川:そうですね。ゲーム業界を革新するようなインディーゲームのヒット作を産み出していきたいというよりは、むしろホロライブのファンの方が自発的に創る「二次創作文化」全体をさらに盛り上げていきたいという考えが強いです。
なので「holo Indie」では、登場するタレント自身はもちろん、ホロライブのファンの方も好きになって、楽しんでもらえるような作品をリリースしていきたいという気持ちがあります。
この考えが根底にあるため、カバーの「二次創作ゲームに関するガイドライン」に沿っていれば、「holo Indie」に応募しない「ホロライブのファンゲーム」が生まれることも、非常に嬉しく感じています。
──ありがとうございます。「holo Indie」の審査基準を改めてお伺いしてもよいでしょうか。
金川:まず、基本的にはカバーの「二次創作ゲームに関するガイドライン」に沿って選考を行っています。選考の公平性の観点から言えないことが多いのですが、その上で現状お伝えできることとしては、「タレントにとってマイナスにならない作品であるどうか。そして多くのファンがマイナスに捉えない作品であるか」という点をしっかりと見ています。
畠野:アニメやマンガのキャラクターとの違いとして、VTuberは実在のアイドルと同じように人格や感情を持って活動されているタレントでもあるので、その方の「タレントイメージや感情に悪影響を与えないか」というところも審査基準として重要視しています。
──日本と海外で、応募されるタイトルの傾向などに違いはあるのでしょうか。
金川:やはり日本の開発者は「タレントの配信で盛り上がったネタ」をゲーム内に持ち込む作品が多いですね。「ホロライブのためのゲーム」という印象があります。
タレントに実際にゲームをプレイしてもらいたいという思いのほか、タレントの配信で盛り上がったネタをゲームを通じてプレイヤーと共有したいという思いを強く受ける作品が多いです。
ウォーキングシミュレーターゲーム『holo8 -ホロハチ-』などが代表的な例ですね。


畠野:そこと比較すると、海外からはゲーム性に力を入れた作品の応募が多いですよね。作品からは「ホロライブが二次創作を開放しているのならその影響力を活用して、開発したゲーム作品をより多くのプレイヤーに届けよう」という気概を感じます。
また海外からの応募作品を審査する中で、ドット絵風のいわゆる8bit系と言われる作品が非常に多いですね。
──「個人開発のクリエイターとタッグを組んで二次創作ゲームの開発をしてもらうプロジェクト」となると、開発の進捗面などの調整の難しさもあるように感じます。プロジェクトを継続するためにどのような取り組みを行っていますか。
金川:一つとしては、やはり個人開発者からの応募だけでなく、インディーのマインドを持ったゲーム開発企業との連携は欠かせないと考えています。ローグライクアクションゲーム『MYRIAD DEATH -ミリアッドデス-』、3Dパズルゲーム『ホロライブお宝マウンテン』は、開発面でも連携を行いリリースしました。


個人開発者の方には、なるべく自由なペースや発想で作品開発を行ってもらいつつ、企業系のインディースタジオとはリリースのスケジュール感をうまく調整し、「holo Indie」というプロジェクトを安定的に継続させていきたいと考えています。
──ちなみに、タレントは「自身の登場するゲームをプレイする必要がある」などのルールなどあるのでしょうか。
金川:それは全くないですね。審査時も含めて、基本的にはタレントのみなさんの負担にならないようプロジェクトを進行しております。
もちろんタレントが「holo Indie」の作品を配信しやすくするため、我々もあらゆるサポートは行っています。
──「holo Indie」がスタートから一年半経った中、今までを振り返ってどのようなことを感じますか?
金川:スモールスタートした事業でしたが、最初に発表したタイトル『ホロパレード』をリリースした直後から、想像以上にたくさんの反響をいただいていることを実感しています。 多くの開発者の方からの応募が続いており、この1年で約23タイトルほどゲームをリリースすることができました。今後もホロライブのタレントやファンが「好き」や「楽しい」と思える作品を増やしていくという原点に立ち返りつつ、できるだけ長く「holo Indie」の運営を続けていきたいと考えております。

◆RTAも実施...「holo Indie」はタイトルにフォーカスするという次のステップへ
──筆者自身はインディーゲーム展示会「東京ゲームダンジョン」にて、「holo Indie」というプロジェクトを知ったという経緯があります。これからのイベント出展の計画や考えなどはありますか?
金川:そうですね。まさしく今までは、イベント出展を通して「holo Indie」というプロジェクトそのものの知名度をあげていくということを一番の目標に考え、複数タイトルのプレイアブル出展などを行ってきました。今後は次のステップとして、より一つ一つのゲームタイトルにフォーカスして、コンテンツのプロモーションをしていきたいと考えています。
その新たな試みとして、4月26日、27日に実施予定のニコニコ超会議への出展では『FLARE NUINUI QUEST』で出展し試遊台ではRTAを実施します。
──RTA…ものすごくニコニコらしいコンテンツですね!
金川:そうなんですよ!「holo Indie」が出展できるのであれば、ぜひニコニコ動画や生放送、ニコニコ超会議の文化にあったやり方にしたいと考えており、色々とリサーチをしていたところ、海外のコミュニティで『FLARE NUINUI QUEST』のRTAが盛り上がっていることに気がつきました。ぜひ、このムーブメントを我々のプロジェクトでも取り入れていこうという考えに至り、企画が固まりました。
本企画では「holo Indie 応援大使」の一条莉々華さんや、カエラ・コヴァルスキアさんにも配信をしてもらいます。現地でRTAが体験できるのはもちろんのこと、自宅にいても彼女らのタイムと競うことができるというニコニコらしい企画が出来上がったと感じているので、ぜひ今後もこのようなイベント出展の取り組みを続けていきたいと考えています。


──思わずイベントに向かいたくなってしまう出展への熱量を感じます。その他、「holo Indie」の今後の取り組みについてさらにお聞かせください。
金川:まず、イベント出展については、昨年に引き続いて「東京ゲームダンジョン」へは全ての日程で出展する上、BitSummitへの出展も予定しています。
さらに「holo Indie」やリリース作品の「認知」を高めるだけでなく「実際に触れてもらう」ための取り組みも考えています。これからもSteam内で積極的に作品をリリースしていきますが、その上でプラットフォームの枠を超えて、家庭用ゲーム機などでプレイ可能なタイトルも「holo Indie」からリリースできたら理想だと考えています。
畠野:また、海外の「holo Indie」の知名度や作品の販売本数は、開発者の熱量に対してまだまだ伸び代があると感じているので、そこへの取り組みを強化していきたいですね。
我々は「ホロライブEnglish」といった、タレントの力を借りつつコンテンツを盛り上げられるという強みは持っているのですが、導線に関してはまだまだですので、海外に情報を伝えていく日本のゲームメディアが立ち上がって発信していただく形で、メディアにはその辺導線の部分でご協力をお願いしたいですね。そういったムーブメントが発生すれば、「holo Indie」に限らず、国内の魅力的なインディーゲームが世界中に広がる文化的な土壌ができるのではないかとも感じています。
──最後に、インサイドの読者に向けてメッセージをお願いします。
金川:「holo Indie」は素敵な「ファンゲーム」に溢れています。我々はこれらの作品が一人でも多くの方に届くよう今後も務めていきますので、これからも応援をよろしくお願いします。特に「holo Indie」の作品はPCスペック面のハードルが低い作品が多いので、ぜひ一度手にとって作品の魅力を味わっていただきたいです。
──ありがとうございました!
以上、「holo Indie」インタビューをお届けしました。カバーが「holo Indie」というプロジェクトを通じて、ホロライブの「ファンゲーム」、ひいては「ファンアート」や「ファン音楽」といった二次創作コンテンツ全体が「後ろめたい気持ちなく」積極的に創られていく土壌を築きあげていくことを目標としていると強く感じました。
二次創作を通じて、ファンがコンテンツ発信を積極的に行うサイクルをより強化することで、ファン、クリエイター、タレント、カバー、あらゆる方面にとってホロライブが「より幸せで、力強いプロジェクト」となっていく未来を、「holo Indie」運営メンバーの熱量高いインタビューへの回答から、想像することができました。