ネット社会の変化

交差点を渡り、スマートフォンでマップを確認しながら『428』、『街』のロケーションを見て回りました。それにしても、『428』を再プレイしていて登場人物たちが手に持っているのがガラケーということには時代を感じさせます。

20年間で急速にモバイルとインターネットが発達しました。インターネットによるコミュニケーションを先行していたのが『街』のオタク刑事こと雨宮桂馬です。彼はデジタル公衆電話からミニノートパソコンで回線をつなぎ、パソコン通信で会った不登校の高校生と会話していました。

2018年の渋谷では、ネットはどう描かれるでしょうか?現在はSNSが全盛となり、ネットのコミュニケーションはカジュアルになりました。そこで新たな問題として炎上やフェイクニュースがあります。むしろこれは、ザッピングしながら多角的な視点で謎を解いていくシステムと相性の良い題材ではないでしょうか。
ゲームセンターとVR


『街』ではゲームセンターが重要な場所として登場します。その中でも「ロンゴロンゴ」は場所がラブホテル街の近くにあったことで、いくつかドラマを展開できたために複数の主人公が訪れていたのです。
雨宮桂馬が爆弾犯を探すために立ち寄ったほかに、マルチ商法&カルト宗教である七曜会に入れられた大学生・篠田正志がボスの女性・日曜日とふたりきりの時、ホテルを尻目に何かを期待しながら入った場所でした。今、ロンゴロンゴは潰れており、跡地ではライブハウスが運営されています。

今の渋谷のゲームセンターの事情はどうでしょうか? しばらく歩くとVR体験を押し出したゲームセンターである「VR PARK TOKYO」が見当たりました。こちらでは通常のゲームやアミューズメントのほかに、VRによる特別なアトラクションを体験できます。

90年代の時点でヘッドマウントディスプレイは登場していたのですが、マニア向けのガジェットの域を出ませんでした。それが現在ではメジャーになっています。いまはAR、そしてVtuberのブームなどのヴァーチャルリアリティが一般的になった時代といえるでしょう。

そんな状況を振り返ると、2018年の渋谷の物語ではヴァーチャルリアリティの舞台も重要となり、Vtuberは確実に登場するでしょう。『428』では主人公のひとりに着ぐるみのタマがいましたが、「中身は誰なのか?」という謎も大きくプレイヤーの興味を引くポイントでした。Vtuberにはそれに近いミステリの効果も見込めます。
ゲーム中のギャグやおまけが現実になった渋谷

渋谷は20年経って逆に『街』の世界観に近くなった面もあります。たとえばパトリック・ダンディという軍人のコスプレをした登場人物が随所に現れるのですが、筆者は当時「こういうキャラ付けはさすがに盛りすぎだな」と思っていました。

ところが2018年現在、道路に目を向ければどうでしょうか。マリオのコスプレをしながらカートを走らせる一団が見当たるではありませんか。『街』をプレイしていたころは本当にコスプレでカートを公道で走らせるという、現実のほうがやりすぎな未来が来るとは思いもしませんでした。

また、『428』、『街』の隠しシナリオでは、実写から一転してアニメーション調になりましたが、現在の渋谷を見るとどうでしょうか。街の看板にはアニメのものを当たり前に見かけますし、ファッションショップの隣にも流行りのアニメの全身ポップが展示されています。
『街』から20年経ち、アニメはオタク趣味の枠内から外れてすごくカジュアルになったと思います。2018年の渋谷の物語では、最初からアニメテイストで描かれる主人公というのもありなのかもしれません。
今の時代にふさわしいコミュニケーションの体験とは?

新しい渋谷の物語は、最終的にはどんな体験がふさわしいでしょうか?『428』のディレクターを務めたイシイジロウ氏は過去にインタビューにて、『街』と『428』の違いをこう答えています。
イシイ:(中略)『街』はまずシナリオありきで、それをゲームでリンクしていく作り方だったんです。それがどういうことになるかというと、“誰も他人に関わらないほうが人生は変化しない”という考え方になってしまうんです。つまり人助けができないんですね。
『428』では逆の作り方をしていて、誰かが他人に関わるほどいい方向へ向かっていくので、人助けができちゃう。そういう意味で街はすごく孤独なので、孤独な中に人々の微妙な繋がりを感じるというテーマで見ると圧倒的に面白いんです。
(「4Gamer×ゲーマガ連動企画第1弾! 今だから話せるサウンドノベル「428 -封鎖された渋谷で-」の秘密を,総監督イシイジロウ氏に直撃!」4Gamerより引用)
つまり『街』は実質的にディスコミュニケーションの体験であり、『428』はコミュニケーションの体験である違いです。これを踏まえ、最新作の体験を考えてみます。ここまでの予想をまとめましょう。
筆者による次回作の予想
- Netflixのような実写ドラマの流れを受け、社会的な問題の追及や、多様性の表現の流れを反映
- 主人公は日本人だけではなく、アジア系も含まれた外国籍の人間もいる
- Vtuberも主人公として登場
- アニメテイストで描かれる主人公も登場
- 敵として半グレのような集団が現れる
- SNSが物語の中核にあり、炎上やフェイクニュースが発生
- 実態の見えづらい事件や暴力がある
このように主人公たちそれぞれが極端に違ううえ、匿名での暴力の起こりやすい環境を想定しますと、おそらくはディスコミュニケーションに流れざるを得ません。それでも、なんとか主人公たちがコミュニケーションすることを探るという体験に持っていくことが、いまリアリティがあるのではないでしょうか。
ありえるかもしれない最新作を想像するうちに、渋谷は夜になりました。街に灯りが点きはじめます。この20年のあいだ、確かなのは街を歩く一人一人がドラマを抱えている自体は変わっていないことです。
