ところで、PlayStation 4に期待するのは実存だ。ただ、コンピューターグラフィックスがきれい見えるだけではなくて。見える、を越えてカラダに伝わる生々しいもの。「ある」を感じさせてくれるマシンになってほしい。
古代ギリシャ人たちはテーブルをはさんで議論をしたそうだ。
「この器は見えるからあるのだろうか、それともあるから見えるのだろうか」と。
見ること。あること。お互いの関係性を論じたのだ。そんな議論の果てに哲学者・プラトンは言った。
「ここにある寝椅子は、横から見たり、前から見たり、あるいは他の方向から見ることによって、それ自体と異なるものに見えるということがあるのだろうか? この寝椅子は見る角度によって形が違うけれども実体は同じひとつの寝椅子ではないだろうか」と。
ものはまずどこかに存在する。人はそのあるものを見て、実存を感じとる。見るのは目、だが目はレンズであり、光を通す道具でしかない。実体があると判断するのは脳である。人間は「脳でものを見る」とも言う。
大きくくくってしまえば、今まで「次世代機」と呼ばれたマシンたちは、人間の目を楽しませてきた。新型ゲーム機はいつもCGをきれいにすることを目標にしてきた。2000年以降になると、その目標と合わせて、目ではない別のものを楽しませようとした。次の目標になったのは手だ。手で触る、手ぶり身ぶりで操作をする。2000年以降の次世代機たちはインターフェースを改革する道を歩いてきた。
PlayStation 4は思い切った決断をした。ここ数年来の次世代機開発の流れを拒み、コンピュータとしての演算処理能力に的を絞って、その性能を前世代機から劇的に進化させた。インターフェースが変わるとゲームが変わる時代が確かにあった。だが、時代は一巡して、新しいインターフェースはかえってユーザーに不便な印象を与える。この時代の変化を敏感にかぎ取ったのだ。
現在、PlayStation 4はPlayStation 3よりも「きれいになった」と言われているが、これはまったく核心からはずれた説明である。プレイステーション4は写す物体のみならず、高い演算能力によってその物体の周りの空気や光、場合によっては湿気なども描写できるマシンだ。今まで演算できなかった物体とカメラの間にあるもの、その中間を描いて、本当にリアルな空間を私たちの目の前に再現してくれる。ゲーム専用機が3D CGを取り入れてから、かれこれ20年が過ぎたが、今までユーザーが見てきたものは計算を省略した立体空間だった。PlayStation 4は、計算を省略しないでより本物に近い立体空間を映し出す。
このような特徴を持つPlayStation 4は4Kテレビ、あるいはヘッドマウントディスプレイと結びつくとさらにその特徴は際立つ。かつて、流行語のようにして使われていた仮想現実が、PlayStation 4によって家庭で楽しめるようになるかもしれない。
きれいに見えるゲームから1歩進んで、「ある」を感じるゲームへ。
PlayStation 4は、この点についてゲームの歴史に名前を刻んでほしい。
■著者紹介
平林 久和
株式会社インターラクト代表取締役/ゲームアナリスト
1962年神奈川県出身。青山学院大学卒。ゲーム産業の黎明期に専門誌の創刊編集者として出版社勤務。1991年に起業。現在に至る。著書、『ゲームの大學(共著)』『ゲームの時事問題』など。デジタルコンテンツ白書編集委員。2012年にゲーム的発想(Gamification)を企業に提供する合同会社ヘルプボタンを小霜和也、戸練直木両名と設立、同社代表を兼任。俯瞰的であること、本質を探ることをポリシーとする。
編集部おすすめの記事
特集
ソニー アクセスランキング
-
『ELDEN RING』最序盤からルーン稼ぎに使える4つの場所!王への道は一日にしてならず
-
『FF14』タンクは難しい?いやいや、コレだけ押さえれば「なんとかなる」6項目─CFは即シャキ、仲間を守り抜く喜びをあなたにも
-
『原神』稲妻には“自力で”行けるのか?ガイアやボートを駆使し、大海原を進んでみた
-
『サイバーパンク2077』の「SFメシ」が気になる! ナイトシティでは何が食べられているのか?
-
『原神』社会人風の神里綾人、学生服の神里綾華が堪らない!中国で「HEYTEA」コラボビジュアル展開
-
【レポート】『夏色ハイスクル★青春白書(略)』パンチラ激写テクを直伝!スライディングからの“尻もちショット”が最強か
-
『Ghost of Tsushima』新参冥人に向けた「冥人奇譚」の特徴&アドバイス14選! 勝利の鍵は“仲間との意思疎通”にあり
-
『絶対絶望少女』レビュー ダンガンロンパとしては最高に面白い…が
-
「エルシャダイを10年間笑ってた方へ」という開発者のメッセージにホロリ…「悪名は無名に勝る」という言葉が染みる
-
『マスターデュエル』だけじゃない!デュエリストの魂揺さぶる『遊戯王』の名作ゲーム3選





