
ゲーム技術者やコンピュータエンターテインメントのエンジニアらを対象とした国内最大級のカンファレンス「CEDEC 2025」が、2025年7月22日から24日にかけてパシフィコ横浜 ノースにて開催されました。
多くのゲーム技術者が登壇・講演をしていくなかで、7月23日には株式会社ワイソーシリアスの斉藤大地さんと、「ゲームゼミ」主筆で「I.N.T.」の編集長を務めるJiniさんの2人がスピーカーとして登場しました。
現在のSteamの状況や、斉藤さんとJiniさん2人が世界中のゲームスタジオやゲームクリエイターを取材するなかで、とある特徴・風土を強く感じられたといいます。それはいったいどんなものだったのでしょうか?今回の講演で2人は話しました。


斉藤さんはドワンゴでゲームコンテストを開催、ゲームメディアの立ち上げや編集にはじまり、ドワンゴとスタジオカラーの共同出資で株式バカー社を設立。その前後にさまざまなゲームタイトルのプロデュースを担当すると、2022年1月にクリエイター・にゃるらさんとともに『Needy Girl Overdose』をリリースし、世界的に大きなヒットをみせました。


そんな斉藤さんは「個人の創作をインターネットを通して広く届ける手伝い」を、ドワンゴのなかで働いていた頃から考えて活動を続けており、個人創作に勤しむひとのために資本や人材などあらゆる面でお手伝いしてきたと話します。


そういったなかで個人・少人数開発のゲームをSteamで販売するという方法を採った斉藤さんは、これまで約300万本以上を累計で販売してきたといいます。開発者やクリエイターが非常に優れていたことは当然だと前置きしつつ、勝因に関してはこのように振り返ります。

Steamにかなり早いタイミングで入ってゲーム販売をしたこと、目立つ要素をあげながら固定ジャンルのファンや旬のジャンルを組み合わせて企画したこと、SNSとYouTubeをあわせてバイラル(ウイルス性のという意味。口コミやSNSを通じて球速に広まることを指す)を最大まで高められたことだと話します。






「しかし」と斉藤さんは切り出します。
その後、2023年以降にリリースした新作が軒並みヒットせず、2024年はクオリティが高い作品を制作できたと自信を感じていたのにもかかわらず、ヒットに繋がらなかったといいます。Steamというプラットフォームの成熟速度に関して、自分の研究がミスだったとも斉藤さんは話します。
以前まではアーリーアクセス時点でデモ版作品を販売・PRすることで、それが売上や販売本数にダイレクトにつながっていましたが、すこしずつ通用しなくなったと振り返ります。
「このボリュームでこの時間でクリアできるないいよね」という好印象なコメントが昔は多かったが、現在では「お金を払ったのだから長くプレイしたい」というコメントが書き込まれたのをみて、Steamユーザーの大きな変化を感じたともいいます。

この1年から2年の間にどのような変化が起こったかを調べたところ、『Needy Girl Overdose』をリリースした2022年に比べてゲーム作品の販売数が倍増近くまで増加したことに気づいたと斉藤さんはいいます。
くわえて、大手ゲーム会社が参入したことで過去の名作やフルプライスの新作が手軽に購入・プレイできる環境となっていきました。こういったメジャーなゲームタイトルと"フラット"にセールスを争っていくことで、インディーゲームが不利になってしまったと斉藤さんは見解を述べました。


2022年以前は、新しもの好きである程度同じようなセンスをもったゲームオタクが集まっており、しかもゲーム販売数も少なかったことで新作を出せばリーチしていましたが、2023~24年以降は世界の地域(ローカル)ごとかつメジャーでわかりやすいセンスをもったゲームユーザーがぐっと増え、販売される新作ゲームの数も増加、しかも過去の名作がリニューアルして販売されるようになったのではないか、このように斉藤さんは近年の傾向をまとめます。
そんななかでワイソーシリアスでは、Steamでの販売戦略を見直そうと動いているところですが、予算・ブランド・集団制作といった総力戦には、あくまで個人クリエイターに対して手助けを続けてきた斉藤さんからみると、全力では乗れないといいます。
ですがそうしてしまうと、ボリュームの面で個人一人では限界があり、現状の大きな悩みにもなっているとあかしました。個人のクリエーターのために何を調達すべきか、「目立つ」だけでは露出の獲得もうまくできなくなり、非常に困ったと白状します。

そこで斉藤さんは、かつてメディアで働いていたときの経験を活かし、さまざまなゲームスタジオに取材を行い、そのなかで得られたメソッドや知見を今後に活かそうと考えたそうです。


ここからは斉藤さんとともに世界中のゲーム会社を取材した、Jiniさんへとスピーカーが交代しました。
Jiniさんは2014年からゲームメディアを立ち上げて活動をスタートさせ、現在はゲームメディア「Indie Intelligence Network」で斉藤さんとともに共同編集者として活動しています。特に有料独立ゲームメディア「ゲームゼミ」を継続して主筆しつつ、他にも書籍、雑誌、ラジオを通してゲーム批評をつづけるなど、精力的な活動をつづけてきました。


Jiniさんは現在Steamのなかで、個人開発者やインディーゲーム会社がいかに素晴らしいゲームをつくりあげても、売れる可能性はかなり低いと語ります。
ただそういった状況でも、海外には注目を集め、成功しているゲーム開発者がいる。彼らはどういったことをやり、周辺環境を生み出していったのか。Jiniさんは簡潔にこのようにまとめました。


1.コミュニティ
2.デモ
3.Agency
この3点だと言います。
『Cult of the Lamb』を制作したオーストラリアのMassive Monsterは、14万人規模のDiscordサーバーを運営しており、やりとりも活発に行なわれているといいます。また地元オーストラリアではリアルコミュニティが根強くあり、PAX AUSというゲームイベントでは『Cult of the Lamb』の世界観に則ってファン同士の結婚式が執り行われるほどです。
こういったコミュニティを継続していく上でのアップデートを重ね、結果的に注目を集め続けることにつながっていると指摘。『Massive Monster』のクリエイティブ・ディレクターを務めるジュリアン・ウィルトン氏は、ゲームクリエイターやマーケティングマネージャーだけではなく、コミュニティマネージャーも別に用意すべきだと取材で答えてていたといいます。

『Thronefall』を制作したドイツのGrizzly Gamesは、SteamNextフェス内でデモ版を公開し、多くのプレイヤーに訴求できたとJiniさんは話します。
このフェスは主にインディゲーム会社がメインとなって集まっており目立ちやすかったといい、加えて「ゲーム開発を実況する動画」を投稿するという露出方法をとり、ゲーム内容の周知や報告も兼ねているだけでなく、プレイヤー側からの指摘・アイディア・フィードバックがもらえると指摘しました。



最後に『バルダーズゲート3』を開発したLarian StudioへJiniさんたちは取材したと報告。インディゲーム会社でもかなり成功しているスタジオですが、世界に7拠点、開発人数700人もの規模感で制作していることを、取材で知ったといいます。どのスタジオも同じ程度の技術力をもたせているといい、世界各地に開発拠点を置くことでゲーム開発そのものが止まらないようにしているのだと、今回の取材でわかったといいます。

こういった開発環境を実現できたのは、開発者一人ひとりの"主体性"(Agency)を信じているからだと取材を通じてわかったといいます。またくわえてプレイヤー側の"主体性"(Agency)も尊重し、示唆することがゲームにおいてすごく重要だとつけくわえました。

最後にJiniさんは、コミュニティがいかにインディゲームにおいて重要なのか、デモ版の販売はインディゲームをPRするのに必要であること、ゲームクリエイター(開発者)とプレイヤーの"主体性"(Agency)が今後より大切になってくるのではないか?とまとめました。





最後に斉藤さんへとスピーカーが変わり、世界中のスタジオへ取材したまとめとして、「ユニーク」であることだと一言でまとめました。

国ごとに、出身文化ごとの歪さがあり、ある種のアイデンティティや文化をプレゼンしていると斉藤さんは感じたそうで、世界で通用する・共通する側面を引き受けつつ、それを自分の中からどのようにひねり出すかでユニークさになれるのではないかと感じたと言います。


くわえて斉藤さんは、教養と友達を手に入れられたと振り返ります。インターネットカルチャーふくめ、古典映画や文学、サブカルチャーを知れたこと、また世界中にゲームスタジオで働く彼らと友だちになれた経験を通じ、世界が求めている「ユニーク」な存在・個人の作家を発見することが、いま自分に向けられている課題ではないかとまとめました。