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なぜ『シャドバ』は“超進化”したのか? 9年の知見を注いだ『Shadowverse: Worlds Beyond』が挑む「遊びやすさと競技性」の両立

同社は、9周年を迎えた大ヒットタイトル『Shadowverse』の後継作を、なぜこのタイミングで世に送り出したのでしょうか。

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なぜ『シャドバ』は“超進化”したのか? 9年の知見を注いだ『Shadowverse: Worlds Beyond』が挑む「遊びやすさと競技性」の両立
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2025年にリリースされたCygamesの新作デジタルカードゲーム(DCG)『Shadowverse: Worlds Beyond(シャドウバース ワールズビヨンド)』。同社は、9周年を迎えた大ヒットタイトル『Shadowverse』の後継作を、なぜこのタイミングで世に送り出したのでしょうか。

2025年7月に開催されたゲーム開発者向け技術カンファレンス「CEDEC2025」にて、リードゲームデザイナーを務める宮下尚之氏が登壇し、その背景にある「ゲームのリデザイン」という大きな挑戦について語りました。

本稿では、DCGが抱える「遊びやすさと競技性の両立」や「先攻有利問題」といった普遍的な課題に対し、『Shadowverse: Worlds Beyond』がいかにして「カードのシンプル化」と「ルールの奥深さ」というアプローチで解決を図ったのか、その戦略と、高速開発を支えるテストプレイ体制の革新に迫ります。

はじめに:『シャドウバース』9年の歴史と『ワールズビヨンド』への挑戦

セッションは、Cygamesの宮下尚之氏による自己紹介から始まりました。宮下氏は2016年にリリースされた『Shadowverse』(以下、シャドバ)でリードゲームデザイナーを担当し、2025年リリースの後継作『Shadowverse: Worlds Beyond』(以下、シャドバWB)でも同職を務める、まさに『シャドバ』のゲームデザインを牽引してきた人物です。

本セッションでは、『シャドバ』の歴史を振り返りつつ、なぜ後継作である『シャドバWB』を開発するに至ったのか、その経緯が語られました。宮下氏は、『シャドバ』がリリースから9年でカード種類が4,000を超え、eスポーツシーンでは優勝賞金1億円を超える大会を開催するなど、大きな成功を収めたIPであることを紹介。アニメやコンシューマーゲーム、リアルカードゲーム『Shadowverse EVOLVE』など多角的な展開も実現してきました。

その上で、後継作開発に至った理由を「技術面」と「アプリ一新によるメリット」の2つの側面から説明しました。

技術面では、「『Shadowverse』IPは30周年を目指しており、そのためには新しい施策やゲーム内イベントを開発していく必要がある。だが、『シャドバ』は約10年前に開発したアプリのため、拡張性において技術的な限界があった」と述べ、長期的な運営を見据えた基盤の刷新が必要だったと明かしました。

また、アプリを一新することで、「前作ではできなかった、新しい楽しみ方を提供できる」とし、ユーザー交流の場「シャドバパーク」などを例に挙げました。さらに、「新作アプリとしてリリースすることで、新規ユーザーや復帰ユーザーが始めやすいタイミングになる」と、eスポーツタイトルとして競技性が高まる中で課題となっていた新規参入のハードルを下げる狙いもあったと語りました。

課題1:ゲームの複雑さを「カード」から「ルール」へ移すことで実現する“遊びやすさと競技性の両立”

ゲームをリデザインするにあたり、開発チームが直面した一つ目の大きな課題は「遊びやすさと競技性の両立」でした。

宮下氏は、『シャドバ』がeスポーツとしての競技性を担保するため、カード能力やプレイの組み合わせを複雑化させていった結果、カードのテキストが長文化し、新規ユーザーの参入障壁が高まっていたと分析します。

そこで『シャドバWB』では、この課題に対し、従来とは逆のアプローチを取りました。
「カード能力をシンプルに、テキストを短くした。その狙いは、ユーザーが遊びやすく、復帰しやすい環境を作ること。そして、ルールを奥深くした。その狙いは、競技性を担保すること」と宮下氏は語ります。

この設計思想の根幹には、「カードはパックのリリースごとに追加され、複雑化するとユーザーの負担が大きくなる。一方、ルールは最初に覚えて慣れてもらえれば、負担は比較的小さい」という考えがあります。つまり、ゲームの複雑さや競技性を、流動性の高い“カード”ではなく、普遍的な“ルール”で担保する方針に転換したのです。

このアプローチを具現化するのが、『シャドバWB』の新要素です。

  • カード能力のシンプル化: 『シャドバWB』では、カード1枚の役割を絞り、本質的な能力のみを持たせることで、テキストのシンプル化を実現しました。

  • 新要素「超進化」: 前作の「進化」をさらに発展させ、カードが巨大化する派手な演出と共に、無敵化など、これまでにない強力な効果を持つように設計。これにより、バトルにおける新たな選択肢と戦略性を生み出しました。

  • 新要素「エクストラPP」: 好きなターンにPP(プレイポイント)を瞬間的に1増やせる後攻専用の新ルール。これもまた、カード能力に頼らずにプレイヤーの選択肢を増やし、ゲームの奥深さを担保する要素となっています。

宮下氏は、「ルール側でプレイヤーの選択肢を増やすことで、カードの能力に頼らず、ルールによってゲームの奥深さを担保することができる」と、その狙いを強調しました。

また、ルールが複雑になることへのフォローとして、「AIアドバイス機能」や、クラスごとの特徴を学べる充実した「チュートリアル」など、新規ユーザーをサポートする機能も強化されています。

課題2:宿命的な「先攻有利問題」に“エクストラPP”で挑む

二つ目の課題として挙げられたのが、多くの対戦カードゲームが抱える宿命的な「先攻有利問題」です。先に行動でき、ターン経過と共に増えるリソース(手札やPP)も常に先行しているという構造的な有利に対し、『シャドバ』では後攻が先に進化できたり、進化回数や初期手札を多くしたりといったルール面の対策のほか、「後攻で有利になるカード」をリリースすることでバランスを取ってきました。

しかし、このカードによる対策は、「同じような能力のカードをリリースし続ける必要があり、ユーザーの負担が大きくなる」という課題も生んでいました。

そこで『シャドバWB』では、この問題に対しても、カードではなく“ルール”でより強固に対策する方針を採用。その核となるのが、前述の「エクストラPP」です。

宮下氏は、この「エクストラPP」が多角的に先攻有利問題を是正すると説明しました。

  1. 手番の逆転: 後攻が好きなタイミングでPPを増やせるため、本来より1ターン早く特定のコストのカードを使用でき、事実上、先に行動できる状況を作り出せます。

  2. リソース不利の軽減: 後攻が使用できる総PP量が増えるため、リソース面での不利が緩和されます。

  3. 事故防止: 手札にあるカードのコストと現在のPPが合わない、いわゆる「事故」のリスクを軽減できます。例えば2ターン目にコスト2のカードがなくても、エクストラPPを使えばコスト3のカードをプレイでき、後攻プレイヤーの手札の質を実質的に向上させます。

開発秘話として、当初エクストラPPはコスト0のカードとして実装を検討したものの、特定のクラスを過剰に強化してしまう問題や、手札上限を圧迫する問題から、現在のUIボタン形式に落ち着いた経緯も明かされました。また、当初はバトル中1回のみの使用想定でしたが、テストプレイのデータや意見を基に、より戦略の幅が広がり、新要素の楽しさを実感できるよう、現在の「前半と後半で計2回」という仕様に変更されたとのことです。

また、このエクストラPPが強力な補正力を持つため、『シャドバWB』では『シャドバ』にあった後攻の進化回数や手札枚数のアドバンテージは不要と判断。先攻と後攻で同じ仕様にすることで、ルール全体のシンプル化にも貢献したと語られました。

2ヶ月に1回の大型アップデートを可能にする「開発体制の革新」

セッションの最後では、『シャドバWB』のタイトな開発スケジュールを支える開発体制について語られました。

前作『シャドバ』では年4回(3ヶ月おき)の大型アップデートと、その間に「アディショナルカード」を追加する小型アップデートを実施していました。一方、『シャドバWB』では、ユーザーが最も盛り上がる大型アップデートの回数を最大化するため、アディショナルカードを廃止し、年6回(2ヶ月おき)の大型アップデートを目指すスケジュールに変更しました。

この高速リリースを実現するため、開発体制、特にテストプレイの工程に大きな変革をもたらしたと宮下氏は明かします。

『シャドバ』では紙のカードを用いたアナログなテストプレイが中心で、1戦に時間がかかるという課題がありました。『シャドバWB』ではこれを完全にデジタル化。開発中のアプリを用いたPCでのテストプレイを導入し、「1日の1人あたりの対戦数が約5倍になった」と、その劇的な効率化を数値で示しました。

このデジタル化を実現した背景には、「カードの実装方法の改善」があります。『シャドバ』での9年間の経験を活かし、カード能力を記述する専用記法(CSV形式)を、よりシンプルで拡張性の高いものに再設計。これにより、複雑な能力でも遥かに短い記述で実装できるようになり、テストプレイ中のフィードバックを即日反映して再テストするといった、高速なイテレーション(反復)が可能になったのです。

まとめ

本セッションでは、『Shadowverse: Worlds Beyond』が単なる続編ではなく、9年間で蓄積された知見と反省を基に、デジタルカードゲームが抱える根源的な課題に正面から向き合った「リデザイン」の産物であることが明確に示されました。

「ゲームの複雑さはカードからルールへ」「先攻有利はカードからルールで是正する」という設計思想の大きな転換は、他のDCGデベロッパーにとっても示唆に富むものでしょう。そして、その挑戦的なゲームデザインを、リリーススケジュールの短縮という形でユーザーに届け続けるための「開発体制の革新」。この両輪が、『シャドバWB』の“超進化”を支える核心と言えます。

宮下氏は最後に「私たちは『Shadowverse』を一緒に作る仲間を求めています」「『Shadowverse』は、これからも“超”進化し続けます」と述べ、セッションを締めくくりました。

《多賀秀明》
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