◆北上市の「鬼の館へ」。そこで見た“鬼”の姿とは
DLCに登場する「オーガポン」は、恐ろしいお面を被った姿が特徴的な伝説ポケモンです。「オーガポン」は名称に「オーガ(鬼)」が含まれています。また、キタカミの里で行われる「鬼退治フェス」では、バルーンなどに「オーガポン」の意匠を確認できるなど、多くの点で“鬼”の要素が強く感じられる存在です。
北上市には、鬼の面を付けて踊る民俗芸能「鬼剣舞」が存在しています。キタカミという地名と“鬼”という共通テーマを決して無視することはできません。そこで、筆者はこの伝説ポケモンの秘密を解き明かすため、北上市・岩崎にある「鬼の館」を尋ねることにしました。


「鬼の館」は、平成4年に建てられた鬼をテーマにした博物館。「鬼剣舞」の発祥の地と言われる地域にあり、館内には、鬼を大きく分類して紹介する“鬼曼荼羅”や、日本各地の“鬼”にまつわる祭りの紹介、日本はもちろんインドネシア、中国など世界中の“鬼面”を飾るコーナーなど、数多くの“鬼”たちが飾られています。
後半では“まつろわぬ民(=鬼)”として、朝廷と戦うことになった東北の人々の歴史や系譜なども展示されています。さらに、ナマハゲで知られるような来訪神たちの紹介のほか、細やかな「鬼剣舞」の系譜や歴史、衣装などが紹介されるなど、素晴らしい展示の数々が用意されています。


“鬼”とは【恐れるもの】【畏れるもの】であり【神もしくは神の化身】である。朝廷はかつて北東(鬼門)の方角にあるということを利用して東北の地に住む人々を【征伐すべき鬼】と呼んだ。土地によっては悪霊祓いや福をもたらす【善神】でもある。「鬼の館」には数々の“鬼”がときに恐ろしく、ときにユーモラスに飾られ、素晴らしく知的好奇心を刺激される場所です。


展示されている鬼面のなかには「オーガポン」のお面のように笑っているようなものや、緑色の面も存在していました。ちなみに、チケットを買う受付で職員さんが折ってくれている「鬼の折り紙」があるのですが、こういう心遣いって嬉しいですね。

◆「オーガポン」はやはり「鬼剣舞」はやはりがモチーフか?
「鬼剣舞」は北上の地で千二百年以上続いていると言われています。死者の供養や悪霊祓いの意味を持つ“念仏剣舞”のひとつなのですが、この地域では「威嚇的な鬼の面」をつけて踊ることが特徴で、そこから「鬼剣舞」の名前で親しまれています。
北上市では、13団体が秘伝書による鬼剣舞を守り、1993年には2団体が国の指定する無形文化財に選ばれています。毎年夏には「北上・みちのく芸能まつり」が開催され、勇壮な鬼剣舞を見ることができます。それぞれの秘伝ごとの違いなどもあり、非常に興味深い祭りです。
北上市にはとにかく“鬼”を思わせる物が多く「鬼柳」と言った地名も。町中には細かく鬼の意匠やイラストが飾られています。なかでも多くの北上市民に「鬼剣舞」は愛されているようで、地元の喜久盛酒造が造る日本酒「鬼剣舞」は、地元のスーパーでも気軽に買えるほど親しまれてる銘柄です。



今回「鬼剣舞」を調べていくうちに、ひとつ大きな「オーガポン」との共通点を見つけました。「鬼剣舞」の“鬼”は実は【仏の化身】であり、そのお面には角がないのが特徴です。そして「オーガポン」を見てみると、通常時の仮面部分には角がないのです。これは3rd Trailerでの仮面が外れたシーンでも確認できます。
「鬼剣舞」は、地面を踏みしめることで悪霊を鎮める「反閇」と呼ばれる所作があります。現時点で「オーガポン」の技などは明らかになっていませんが、もし【じならし】や【しょうりのまい】などの技があれば、やはり「鬼剣舞」がモチーフなのかもしれませんね。


北上市には「キタカミの里」を思わせるいくつかの共通点を見つけることができました。いくつかはこじつけの部分があるかもしれませんが、角のない仮面という「鬼剣舞」と「オーガポン」の共通点は大きな発見ではないかと思います。
『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』のダウンロードコンテンツ「ゼロの秘宝」は現在発売中。「オーガポン」が登場する前編・碧の仮面は2023年9月13日に配信予定です。
次回は新ポケモン「イイネイヌ」「マシマシラ」「キチキギス」を中心に、岩手県で伝えられる民話の世界を紹介していきます。
参考文献:「北上市立鬼の館 常設展示図録」平成7年 編集・発行/北上市立鬼の館
