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【hideのゲーム音楽伝道記】第54回:『勇者ヤマダくん』― おじさま勇者が主人公の超個性派RPGを彩る、ピコピコ&鼻歌サウンド

インサイドをご覧の皆さま、こんばんは。ゲーム音楽大好きライターのhideです。ゲーム音楽連載「hideのゲーム音楽伝道記」第54回目となる今回は、『勇者ヤマダくん』をご紹介します。

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【hideのゲーム音楽伝道記】第54回:『勇者ヤマダくん』― おじさま勇者が主人公の超個性派RPGを彩る、ピコピコ&鼻歌サウンド
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インサイドをご覧の皆さま、こんばんは。ゲーム音楽大好きライターのhideです。ゲーム音楽連載「hideのゲーム音楽伝道記」第54回目となる今回は、『勇者ヤマダくん』をご紹介します。


『勇者ヤマダくん』(以下『ヤマダくん』)は、2016年1月15日にDMM.com POWERCHORD STUDIOからスマートフォン(iOS/Android)向けに配信されたRPGです。開発はOnion Gamesが手掛けました。本作は、『moon』、『チュウリップ』などの個性的な作品を制作してきたゲームクリエイター、木村祥朗氏がディレクターを務めた作品となります。

本作の主人公・ヤマダくん(36歳)は、大手ゲーム会社に勤務するサラリーマン。しかし彼は出社拒否気味で、自宅でゲーム作りにいそしむ毎日。そんなとき、彼は隣室に住む女子高生のマリアちゃんにひとめぼれをしてしまいます。すぐに彼女をモデルにしたマリア姫をゲームに実装し、会社そっちのけでゲーム作りにのめりこんでいた彼は、会社をクビになってしまうことに……。あふれる悔しさをゲーム作りにぶつけるヤマダくん。職を失っても自作のRPGを作り続けるヤマダくんが行きつく先はどこなのでしょうか。そして、ヤマダくんとマリアちゃんの恋の行方はいかに!?


本作では、「プレイヤーが、ヤマダくんの作るRPGをテストプレイする」という形でさまざまなダンジョン(塔)を攻略していきます。ダンジョンの各階層は5×5の25マスで作られており、移動の際には、スタート地点からゴール地点までのルートを、指を使って一筆書きの要領で描きます。それを終えると、ヤマダくんが行動を開始。敵がいた場合は自動的に攻撃してくれます。すべての階層を突破し、最上階に待ちうけるボスを倒してクリアすると、見事ダンジョンクリア。探索中に入手したゴールドや宝箱の中身を手に入れることができます。これを繰り返すことで少しずつ強い武器や防具などを手に入れ、ヤマダくんを強化しながら攻略を進めていくわけです。

ゲームシステムとしては非常にシンプルなのですが、侮ることなかれ。ダンジョンの中には様々な敵キャラやトラップもたくさん用意されており、どんなルートを通っていくか、どのタイミングでアイテムを使用するかなど、考えるべきポイントが色々あります。これがなかなか奥深いのです。絶妙なゲームバランスで、冒険している感覚も味わえる楽しいゲームですよ。ちなみに、各階層のすべてのマスを通ってゴールすると、パーフェクトクリアとしてボーナスアイテムがもらえるので、積極的に狙ってみるのもアリです!

さて、そんな『ヤマダくん』の世界を演出するために重要な存在、それが音楽です。……はっきり言って、かなり個性的です(笑)。これまでの連載でご紹介してきた作品の中でも、一番個性的かもしれません。

本作の音楽を手掛けたのは、『Rez』、『ニュールーマニア ポロリ青春』などの作品に携わってきた、スタジオカリーブの作曲家・杉山圭一氏。ピコピコサウンドと鼻歌風のボーカルが絶妙にブレンドされて生みだされるコミカルなサウンドは、『ヤマダくん』の世界を見事に演出していますよ!

◆『ヤマダくん』の世界観にぴったりな主題歌「逆行人生」


本作でまず印象に残るのは、タイトル画面で流れる主題歌「逆行人生」です。本楽曲を歌うのは、関西を中心に活動するミュージシャンのカオリーニョ藤原氏。聴く者を包み込むようなおおらかさと穏やかさがあり、かつヤマダくんのそこはかとなく漂う哀愁を感じさせるカオリーニョ氏の歌声は、『ヤマダくん』の世界にピッタリ合っています。


ちなみに、カオリーニョ氏が起用された経緯は、ディレクターの木村氏が過去にイベントで語られていました。友人からカオリーニョ氏のアルバム『カオリーニョ藤原の真実』をオススメされて聴いてみた木村氏は、この「逆行人生」という曲が流れてきた時、「この曲、自分が作っているゲームの内容そのままじゃないか……!?」と驚いたとのこと。その後、木村氏はカオリーニョ氏のライブ会場や大阪を訪ねて、「逆行人生」を『ヤマダくん』のゲームで使用させてもらえませんかとオファーしたのだそうです。

僕は以前、『ヤマダくん』の公式イベントでカオリーニョ氏の生歌による「逆行人生」を拝聴したことがあるのですが、素晴らしかったです。歌詞は6番まであるのですが、6番の歌詞が特に大好きですね。「夢を追いかけここまで来たが、気がつきゃ人生がけっぷち」、「今さら戻れぬ、後には引けない俺の意地」といった熱い歌詞なのです。優しくも力強い歌声とともに、心に沁み入ってきました。名曲だと思います。「逆行人生」は公式PVで少し聴くことができますので、ぜひ聴いてみてくださいねー!

◆超絶的に耳に残る、鼻歌満載の楽しいサウンド


さて、ここからは『ヤマダくん』の実際のゲームプレイにおける音楽面をご紹介していきましょう。『ヤマダくん』のサウンドは、ピコピコサウンドを基調にしつつ、そこに鼻歌風のボーカルが多く使われているのが特徴的です。たとえば、ダンジョンの最上階に待ち受けているボスのところや、敵がたくさんひしめいている危険な階層に入る時には、「でーんででーんででで、でーんじゃぞーん!」という歌声が流れるのですが、これが妙に耳に残るんですよ。僕は初めてこれを聴いた時、しばらく頭にこびりついて離れませんでした(笑)。また、ボス戦の際に流れる「ワンダバダァで戦闘中」という楽曲も、「ワンダバダァー、ワンダバダァー、ワンダバダァー!」「ワンダバダバダバワンダバダバダバ……」というボーカルが強烈な印象を残します。

また、ヤマダくんの装備を選ぶ画面で装備を特定の組み合わせにすると、「珍しい装備」という意味の『珍(ちん)コレクション』が発動し、パラメータがアップするなどのボーナスが発生します。この時に鳴るファンファーレがツッコミどころ満載で(笑)。星1つの「ノーマル珍コレ」だと『珍コレ~!』という歌声が流れ、星2つの「ちょいレア珍コレ」だと『珍コレ、珍コレ、珍珍珍~!』、星3つの「スーパーレア珍コレ」だと『珍珍コレ、珍珍コレ、珍珍珍珍ー!!』という歌声が流れます。「そんなにチンチン連呼するなーッ!」と、僕は思わず笑いながらツッコんでしまいました(笑)。

あとは、ヤマダくんが自宅でゲーム作りにいそしんでいる時に、さまざまな人たちが訪ねてくることがあります。その中のひとりにアジャ・イルさんという、頭にターバンを巻いたインド人の天才プログラマーが訪ねてくることがあるのですが、その際に流れる楽曲「アジャが来たよ」も中毒性が高いです。「アジャ!…アジャ、キター!」というボイスは、一度聴くと頭から離れてくれずに、ゲームをプレイしていない時にもふと思い返して反芻してしまう……そんな不思議なパワーがあります。ぜひゲームをプレイして堪能してみていただきたいですね。

ちなみに、このゲームにはレトロゲームをモチーフにした音楽的なパロディ要素が入っているのも面白いです。ダンジョンの攻略を開始する際のファンファーレは某ダンジョンRPGっぽいですし、ヤマダくんが呪文を唱える時の音や、ヤマダくんのゲーム開発レベルが上がった時のレベルアップの音は某国民的RPGっぽかったりしますし。これらの元ネタを探してみるのも楽しいかもしれませんね。

なお、『ヤマダくん』の世界の通販サイト「ママゾン」でお買い物をして、商品がヤマダくんの家に届けられる時の音楽「ママゾンだゾン」も、某通販会社の番組で流れる楽曲を連想させる曲調だったりします。「ママゾン、ママゾン、マ~マ~ゾ~ン~~♪」というかわいらしく耳に残る楽曲で僕は大好きですね(笑)。思わず頬がゆるんじゃいます。

◆遊び心が詰まった楽しい作品!


『ヤマダくん』という作品は、世界観がかなり独特なので敬遠してしまう方も少なくないかもしれませんが、ゲームとしてはきちんと作られており、遊びごたえのある作品です。

コミカルで思わず笑ってしまう演出が満載で、プレイしていると笑顔になれるゲームだと思います。こういう“遊び心”にあふれたゲームは個人的に大好きですね。木村氏をはじめ、制作者の皆さんもきっと楽しんで作られたのだろうな……というのが伝わってきます。かなり個性的で「濃い」作品なので、若干人を選ぶ部分はあるかもしれませんが、好きな方はきっとドハマリするはずです! 基本プレイは無料なので、ぜひ気軽に触ってみていただけたらと思います。不思議な魅力がある作品ですよ。もし『ヤマダくん』の世界にピンと来たという方は、その直感を信じてプレイしてみてくださいね。

そして音楽面についても、かなりクオリティが高い作品です。杉山氏の音楽とカオリーニョ氏の歌声によって紡がれる『ヤマダくん』サウンドは、木村氏が作る独特な世界観を見事に音で表現しています。強烈なインパクトと刷り込み度を持つ楽曲が多いので、プレイしているとかなり耳に残ると思いますよ! かくいう僕も、はじめて本作をプレイしてからもう1年近く経ちますが、いまだに日常の何気ない瞬間に「でーんででーんででで、でんじゃーぞーん!」「アジャ、キター!」といったフレーズが頭に浮かんでずっと離れなくなってしまい、『ヤマダくん』をプレイしたくなっちゃう、ということが時々あるくらいなので(笑)。ぜひ『ヤマダくん』の楽しい世界を、ゲームも音楽も含めて味わってみてください。

余談ですが、本作の課金要素に、いわゆる「ガチャ」は一切ありません。ママゾンで販売される有料アイテムとしては、ダンジョン内でやられてしまった時にコンティニューができる「オニギリ」や、アイテムを収納する倉庫を大きくできる「倉庫拡張券」、ヤマダくんが常に元気いっぱいになる(スタミナが無限になる)「お元気ダック」といったアイテム類しかなく、過剰に射幸心をあおるようなものは無いので非常に良心的だと思いますね。ゲーム自体の面白さも含めて、本当にいい作品だと思います。もっとこういうゲームを、世の中の多くの人に知っていただいて、遊んでもらえたらいいなと願っています!

◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆


本作のサントラとしては、『勇者ヤマダくん 珍曲アルバム ~A面・B面・C面~』という音楽CDがSweepRecordから販売されています。ご興味をお持ちの方はお聴きになってみてください! ジャケットからして「よいことよいおっさんのための たのしいゲームサントラ」「昭和81年度版」といった、思わず頬がゆるんでツッコミたくなる文言が満載の楽しいサントラです(笑)。

なお、『ヤマダくん』のサウンドは、2016年のCEDEC AWARDS(※)のサウンド部門優秀賞を受賞した実績を持っています。選考理由にも書かれているように、ゲーム全体に流れる独特なゆるさ・コミカルさを見事に演出しているサウンドです! 電車の中などでスマートフォンのゲームをプレイする際には消音にする方もいらっしゃるかと思いますが、『ヤマダくん』をプレイされる際には、ぜひぜひイヤホンなどを使って、音楽にも耳を傾けて遊んでいただければと思いますね。そのほうが、楽しさが何倍にもなりますから。

※CEDEC AWARDS…… 一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会 (CESA) が主催する、日本最大のゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC」(Computer Entertainment Developers Conference)で2008年から行われている、ゲーム開発者らの投票によって決められる賞のこと。

【筆者プロフィール】
 hide / 永芳 英敬

ゲーム音楽ライター&ブロガー。ゲーム音楽作曲家さんへのインタビュー記事、ゲーム音楽演奏会のレポート記事など、ゲーム音楽関係の記事を執筆しています。最近は『ニーア オートマタ』、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』をプレイ。どちらも大傑作です!
[Twitter] @hide_gm [ブログ] Gamemusic Garden

(C)DMM.com POWERCHORD STUDIO/Onion Games
《hide/永芳英敬》
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