
2026年9月17日、東京ゲームショウ2026(TGS2026)にてTwitch CEOのダン・クランシー氏が基調講演に登壇し、続いてメディア向けのラウンドテーブルが開催されました。インサイドでは、それらに続く形で個別インタビューの機会を得ました。
基調講演とラウンドテーブルで繰り返し語られたのは、「居場所」としてのコミュニティというTwitchの設計思想でした。本稿ではそこからさらに踏み込み、VTuber文化のこれから、今年実施された収益化ツールの全面開放、そして日本のユーザーにとって切実な「言語の壁」について聞いています。

クランシー氏はNASA、Googleを経て2023年にTwitchのCEOに就任した人物です。自らも「DJClancy」名義で配信を続けており、プラットフォームの経営者であると同時に、一人の配信者でもあります。
◆VTuber文化は“さらに広がっていく”見立て
——まず、初めての東京ゲームショウはいかがですか。
ダン・クランシー:TGSは今回が初めてです。何年も前から来たいと思っていました。圧倒されるというか、実に見応えのある、素晴らしいショーですね。
——VTuber文化は日本で生まれ、いまや日本国外でも大きく広がっています。この状況をどうご覧になっていますか。
ダン・クランシー:VTubingは日本で始まったものです。おっしゃる通り、日本の外でも大きく伸び続けていますが、私はまだごく初期の段階だと考えています。というのも、これまではVTuberのキャラクターを制作するのに費用がかかりました。今後はもっと手軽にVTubingを始められるようになるはずで、そこからさらに広がっていくと思います。
——どのように進化していくとお考えですか。
ダン・クランシー:三つあります。第一に、参入のハードルが下がることで、より多くの人が引き寄せられるでしょう。やりやすくなればなるほど、関心を持つ人が増えていきます。
第二に、2Dモデルから3Dモデルへと移行する人が増えていくと思います。そして第三に、環境そのものがもっと面白くなっていくはずです。VTuberがバーチャルな環境とインタラクションできるようになり、他の人がその環境に入ってきたり、出ていったりする——そういうことが起きてくると考えています。

◆Twitchが掲げる「コミュニティ」の定義とは
——基調講演でもメディア向けの場でも、クランシーさんは「コミュニティ」の重要性を強調されていました。ただ、日本におけるコミュニティのあり方と、他国におけるそれは性質が異なるようにも思います。クランシーさんの言う「コミュニティ」の定義を教えてください。
ダン・クランシー:コミュニティが文化によって異なる、という見方には、私は同意しません。
私が「コミュニティ」と言うとき、それは他者とのあいだに感じるつながりと帰属の感覚を指しています。現実世界における「コミュニティ」という言葉を考えてみても、結局は共有された経験に行き着く。その経験を通じて、人は最終的に「居心地がいい」「受け入れられている」と感じられるようになる。
コミュニティへの欲求は、文化を超えた人間の根源的な欲求です。違うのは、その欲求の表れ方のほうです。文化が異なれば、その表れ方は違ってくるかもしれない。でも、根底にある欲求そのものは同じなんです。

——ショート動画が世界的に動画消費の主流となっています。コミュニティを形成する上でライブ配信が果たす役割は理解できますが、短尺動画やクリップの圧倒的な普及を前に、その視聴者をどうやって長尺のライブ配信へ引き込むのでしょうか。
ダン・クランシー:Twitchのクリップ機能は、SNS上で広く拡散しています。クリップを目にしている人の数は、実際にTwitchに来ている人の数よりずっと多い。
ですから私たちは、ショート形式のクリップをTwitch体験のより中核的な部分に組み込んでいきたいと考えています。クリップが視聴を集めている、その流れのままライブ配信へ戻ってきてもらいやすくする。ライブ配信こそが、コミュニティ体験の土台ですから。

◆収益化条件を緩和、その狙いは
——今年5月、収益化ツールをアフィリエイト資格なしで全世界に開放されました。この判断の狙いを教えてください。
ダン・クランシー:Twitchで収益を得たいと望む人なら、誰でもそれができるようにしたい、ということです。これまでは基準を設けていました。不正への懸念があったからです。ですが現在は、そうした問題を検知できる水準に到達しました。だからこそ、コミュニティを育てていく過程でこれらの機能を使い始められる人の範囲を、広げたいと考えたのです。
——施策から数か月が経ちました。ストリーマーの定着率や、初めて収益を得るまでの期間に変化は出ていますか。
ダン・クランシー:定着率のような指標の変化が表に出てくるには、もう少し時間が必要です。ただ、この4か月でクリップの利用は約50%増加しました。Twitch上でのツールの利用は確実に増えています。そして数週間後にはもう一つ施策を控えていて、これがさらにこの流れを強めるだろうと見ています。

◆Twitch CEOが注目する日本ストリーマーは

——グローバル企業として、日本市場をどのように位置づけていますか。
ダン・クランシー:日本はTwitchにとって最大級の市場のひとつです。成長の余地も大きく、今後も拡大していくと考えています。興味深いのは、日本で始まったものが文化として世界に広がっていくケースが多い、ということです。VTubingはその好例ですし、アニメやマンガの文化、コスプレもそうです。日本市場の影響力が日本の外へと及んでいく、この流れは今後も続くと見ています。
——注目している日本のストリーマーはいますか。
ダン・クランシー:正直なところ、日本のストリーマーの配信を見るのは私には難しいんです(言葉の壁があるので)。チームから、最近Twitchに来てくれた配信者について話を聞いています。名前をなかなか覚えられなくて申し訳ないのですが……最近配信を始めて、とても楽しんでくれている「がーどまん」さんという方がいると聞いています。SHAKAさんも大きな注目を集めていますよね。
——ところで、日本でTwitchConを開催する予定はありますか。
ダン・クランシー:開催できていたらよかったのですが(笑)現時点で具体的な計画はありません。日本でもっと多くのことをやりたいという気持ちはあります。今回こうして日本での存在感を高めようとしているのも、その理由のひとつです。日本のコミュニティのためにできることをどう増やせるか、常に考えています。
——日本の視聴者は海外の配信者に関心を持っていますし、逆もまた然りです。ただ、そこには言語の壁があります。この問題への取り組みは進んでいるのでしょうか。
ダン・クランシー:私が魔法使いなら、指を鳴らしてその問題をすべて解決するんですけどね(笑)
現在検討しているのは、まず字幕をより簡単に提供できるようにすること。そしてゆくゆくは、そこから翻訳へ対応していくことです。どう実現するかはまだ検討中ですが、幸いAIの技術が発達しています。そう遠くないうちに、こうした機能をサポートできるようになると思っています。

——最後に、今後注目しているゲームタイトルを教えてください。
ダン・クランシー:やはり『グランド・セフト・オートVI(GTA6)』がもうすぐ出ます。大きなムーブメントになるでしょう。先日は『ファイナルファンタジーVII リベレーション』のチームとも話す機会もありました。4月に予定されている発売も、大きな節目になるはずです。来年は多くのタイトルがローンチされる年になります。ゲーム業界にとって、非常にエキサイティングな一年になると思いますよ。
——日本のTwitchコミュニティにメッセージをお願いします。
ダン・クランシー:クリエイターのみなさんがコミュニティを築くために積み重ねてきたすべてのこと、そしてそのクリエイターの周りに集まったコミュニティが成し遂げてきたすべてのことに、感謝しています。多くのクリエイターが、おそらく自分にはできるとすら思っていなかったようなことを、実現してきたのですから。いつも感謝しています!
日本でも、ストリーマーを起点とした大会やイベントが定着しつつあります。「League The k4sen」や「CR FES」に集まる熱量は、配信者と視聴者のあいだに築かれた関係が、画面の外にまで及んでいることを示しています。
短い動画を次々と消費する時間の使い方が当たり前になった今、数時間の配信を見届けることは、むしろ贅沢に近いのかもしれません。それでもTwitchが長尺のライブにこだわるのは、通り過ぎるだけのコンテンツからは居場所が生まれないからでしょう。

















