
2026年5月22日から24日にかけて、京都・みやこめっせにて日本国内最大級のインディゲーム展示会「BitSummit PUNCH」が開催されました。
この記事ではこのBitSummit PUNCHに新作『Kiln』と、『Keeper』を出展していた、老舗ゲーム開発チームDouble Fine Productionsのメンバーへのインタビューをお届けします。
実は、日本での出展はあまり例のないDouble Fine Productionsの人々は、この機会に何を語るのでしょうか。
『Kiln』Steamストアページ『Keeper』Steamストアページ最新作『Kiln』は老舗スタジオの新たな挑戦!?

ーーDouble Fine ProductionsはPCゲーム、あるいはインディゲームを追っているなら必ず知っていると言えるほど著名なゲームスタジオです。ですが、まだご存じない方も多くいらっしゃいます。Double Fine Productionsというスタジオについて今一度お教えください。
Derek氏:Double Fine ProductionsはTim Schaferによって設立されたゲームスタジオです。彼は長年Lucas Artsで多くのゲーム開発に携わってきた人物で、独立し2000年にこのスタジオを立ち上げました。そしてまず『Psychonauts』というゲームを開発し、そこをスタートに活動してきました。長年インディデベロッパーとしてやってきましたが、2019年にXboxファミリーの一員となりました。
ーー『Kiln』はDouble Fine Productionsとしては珍しいチーム対戦型のマルチプレイゲームです。その世界観やビジュアルはまさにDouble Fine Productionsのゲームという印象を受けますが、なにか対戦ゲームだからこそ開発で苦労をされた点などございますか?
Derek氏:ええ。普段私たちが手掛けているシングルプレイヤー向けの作品とは、かなり毛色の異なるプロジェクトでした。
というのも私たちが手掛けてきた他の多くのシングルプレイヤー作品はストーリー主導でゲームを制作しています。しかしマルチプレイヤーゲームである『Kiln』はストーリー主導ではなく、ゲームシステムそのものを中心に構築せねばなりません。
今回は私たちの通常のプロセスとは異なり、まずはシステム作りから始め、それが楽しめるものになるよう注力し、そこから積み上げてきました。
例えばマルチプレイヤーゲームはとにかくプレイテストを何度も何度も繰り返さなければ、良いものになっていきません。『Kiln』の制作では毎日作業の手を一旦止め、チーム全員でゲームをプレイする時間を必ず設けるようにしていました。それを通じて、議論とコミュニケーションを活発化させ、ゲームをよりよいものに近づけていきました。
こうしたシステム作りをまず行った関係から、アートの作業は普段よりも少し後回しにする必要がありましたね。
ーーなるほど。『Kiln』はさまざまな器をまとった精霊たちが敵チームの釜を消化するために水を運び合うというシステムが駆け引きを生み出す大事な要素です。ですが、アートは少し後になったというお話も出ています。陶器が戦うというアイデアがあったから水を運ぶゲームシステムになったのか、それとも水のようなものを運ぶシステムのアイデアがあったから陶器が戦うゲームになったのか。このゲームの始まりはどこからだったのでしょう?
Derek氏:そうですね。このゲームの始まりは私のコンセプトアートに残されています。実はこのゲームの始まりは水を運び合うシステムでも、陶器を戦わせるというコンセプトでもなく、「自分が生み出したキャラクターで、相手の作ったキャラクターと戦いたい!」というところからスタートしました。
陶器・陶芸は、プレイヤーがコントローラーを使って3Dキャラクターを生み出すための要素として取り入れたものなんです。
ーープレイヤーにキャラ制作させるための陶芸だったんですね!ここで疑問なんですが、なぜ陶芸をチョイスしたのでしょう?他にもさまざまな選択肢はあったと思います。
Derek氏:芸術・工芸についてさまざまリサーチを行っていたのですが、そのとき偶然いろんな形の、いくつもの鉢が並んでいる写真を見つけたんです。その写真の鉢に、小さな顔を描いてみたのがきっかけでした。最初は顔を書き込むだけだったのですが、今度はその鉢たちがいろいろなことをしている絵を描きました。
いろんな鉢が個性豊かに活動する、そこで生まれる多様性が面白いなと感じたんです。それに鉢がゲームでいろんなことをするなんて見たことがありません。自然と「これはやってみるべきだ」という気持ちになりましたね。
それから徐々に形になっていき、私たちは陶芸に夢中になりました。水を噴射して釜を消火したり、水を溜めて運んだりといったメカニズムだけでなく、陶芸に魅了されたこと自体が、多くのクリエイティブな判断を下す上での基盤となりました。

ーー陶芸に触れたことでインスピレーションが膨らんだということですね。陶芸パートはリアルな要素が盛り込まれ、かなりこだわっていると感じます。このゲームのために陶芸を勉強されたのですか?それともチームメンバーに陶芸に詳しい方がいらっしゃったとか?
Derek氏:はい。チームで数カ月間、陶芸レッスンを受けました。プリプロダクションの期間中に週1回教室に通ったんです。そこで学んだことを、ゲームに反映しました。
ーー先にお話されていたとおり、陶器がキャラクターとして動き出すゲームというのは他にないものです。バトルを彩る演出やアニメーションへの工夫をお教えください。
Derek氏:まずキャラクターを生み出すというところからスタートしているゲームなので、なにかを作ったときの、そしてそれがぶっ壊れるときのカタルシスを意識しました。
「Your shape matters」という言葉があるのですが、体が大きくて横幅のある壺なら、それに即したのっしりとした動き、背が高くて細い壺なら、同じようにその形に合わせて動きが必要です。もちろん壊れるときもそれ相応の壊れ方があります。プレイヤーそれぞれが生み出し、魂を宿した陶器の形がちゃんとアニメーションに反映されることが大切なんです。
今日もこの場に来ていますが、私たちのリードアニメーターであるミユキさんがアニメーションを主導してくれ、作った陶器の個性がしっかり反映されるアクションを生み出してくれました。
ーーゲームの世界観設定についてなのですが、さまざまな神話をベースにしたのはなぜなのでしょう?
Derek氏:陶芸のリサーチを始めた当初、陶芸に関する事柄の多くが古代文化に関連していることに気づきました。世界中の多くの文化圏で陶器が使われ、作られてきた歴史があり、陶芸は非常に古くからあるものだと……。私たち人類は、陶器を通じて、ありとあらゆる古代文明やその歴史に触れてきたわけです。
そこから、神と陶器を並べ、ごくごくありふれた実用品として捉えてみるという発想に至りました。陶器ぐらい身近な存在の神が、現実離れした神話の世界に生きているなんて、面白いですよね。
ーーこのゲームを遊んでみると、その通信環境の整備ぶりに驚かされました。これはおそらくXbox Game Studiosの助力あってのことだと思います。Xboxファミリー入りをしたDouble Fine Productionsですが、ゲーム制作で良くなったことや、逆に苦労することはありますか?
Derek氏:私の視点から言えば、よいことしかなかったですね。なぜなら、彼らは私たちの制作活動に対して非常に寛容で、何らかの制約を課されるようなこともありませんでした。そのため、自分たちがやりたいことを自由に実行し、彼らが持つリソースを駆使して、作りたかったゲームを実現することができているからです。
Double Fine Productionsの得意とするアドベンチャー。その秘訣とは?

ーー併せて、昨年発売された『Keeper』についてもお話を伺っていきます。『Kiln』とは異なり、『Keeper』はDouble Fine Productionsのお家芸とも言えるシングルプレイのアドベンチャーです。まず、朽ちた灯台が倒れそこに足が生えて歩き出し主人公になるというところは、まさにDouble Fine Productionsらしさを感じました。このアイデアはどこからはじまったのでしょう。
Lee氏:手短にお話すると、元々のアイデアは私の家族から生まれたものでした。
世界的なパンデミックの最中のころ、一人で山を歩きながら、ふと人類がいなくなった後の未来の生命はどのようになるのかと考えたんです。いろんなものが何の意味もなくなってしまうんじゃないかと。
もう船がやってくることもないなら、灯台だって無意味なものになってしまう。では、それは何のためにあるんでしょうか?このゲームは慣れ親しんだ全てが失われてしまったとき、自分自身のために新しい目的を見つけ、変わっていくことについての物語なんです。
ーー『Keeper』では言語を用いないスタイルを採用し、そこをゲームの売りの1つにしています。ですが、ゲームにおいてそうしたスタイルは珍しくはあるものの決してこのゲーム独自のものではありません。ですので、このゲームには言語を用いない強い理由があるのではと感じます。
Lee氏:そうですね。近年のゲームはどこに言って何をすべきか、遊びやすさを優先し逐一指示するものが多いと感じています。ですがだからこそ、私たちは、そうやって指示されるのではなく、プレイヤーが時間をかけて探索をし、ゲームの意味を自分なりに解釈する体験を作りたかったんです。
なんというか、プレイヤーが私を見つけて、本の中にハートを添えてくれるというか……そんなイメージですね。
ただ、難しすぎないようヒント機能については拡充をする予定です。
ーーお話を聞くだけでストーリーと体験を重視してゲームを作っていることが伝わってきます。Double Fine Productionsはそうしたゲームの名手として知られていますが、このようなゲームを生み出す秘訣をうかがってもよいでしょうか?
Lee氏:私はゲームは芸術であり、人々はゲームという媒体を通してなにかを表現していると強く感じています。ですので、クリエイターは自身にとって意味のあるゲームを作るべきだと強く信じています。
多くの人が、仕事としてゲーム制作に取り組んでいます。ですが、もっと自分を出して作りたいものを作ることができれば、そのメッセージは自然と伝わるのではないでしょうか?
ーーDouble Fine Productionsの作品はすでに最新のものは日本語ローカライズが実装されておりありがたい限りです。ですが、以前の作品はそうではありません。過去作品の多言語対応、また遊べなくなってしまったゲームの復刻計画はありますでしょうか?
Lee氏:実はそういったリクエストは多く頂いています。ですが現時点ではまだ発表できることは何もありません。が、以前より多くのリソースを私たちは確保できています。今後さらにリソースを増やし、皆さんによりよい情報をお届けできればと考えています。
ーー最後に、日本のファンに1言ずついただけますでしょうか?
Derek氏:『Kiln』を楽しんでくれている皆さん、ありがとうございます!本当に皆さんが何を作ってくれるのか?楽しみで仕方がありません。このゲームはモノ作りのゲームです。だからこそ、皆さんが何を作るのかが見てみたい。どんな作品を生み出してくれるのか本当に期待しています!
『Kiln』の開発はこれからも続きます!フィードバック、あと「こんなエモートがほしい!」なんかの要望もお待ちしています!
Lee氏:私たちDouble Fineのメンバーはみな、日本の芸術や音楽、そして文化のファンです。そんな日本の人々が、私たちのゲームを気に入ってくださっていると思うと、とてもワクワクします。楽しんでいただけているのなら本当にうれしく、幸せです。
ーー本日はお時間をいただきありがとうございました。
インディーゲームという大きなムーブメントを初期からひっぱり、今もなお個性的なゲームを世に送り出し続けているDouble Fine Productions。そのゲーム作りへの思いや、こだわりが垣間見えるインタビューでした。
Double Fine ProductionsはXboxファミリー入りを果たして以降、さらなる飛躍と挑戦を続けています。往年のファンはもちろん、Double Fine Productionsの名前を最近知ったという方も、彼らの今後の活躍に注目してほしいです。
『Kiln』Steamストアページ『Keeper』Steamストアページ











