■『伊勢人魚物語』の興味深い幕開け

熱気を高めたまま登場した『伊勢人魚物語』には、当然高い期待が寄せられました。必然的に超えるべきハードルも上がる中、その期待に応える内容になっているのでしょうか。
ここからは、筆者が『伊勢人魚物語』をプレイした体験を元に、本作に対する率直な手ごたえをお届けします。ADVなのでプレイする楽しみを奪わないよう核心的なネタバレは避けていますが、序盤の展開には触れているため、その点ご留意ください。
本作はタイトル通り「人魚」を題材としています。前作が開始数分で死者が出るスリリングな幕開けだったのに対し、本作はそこまで急展開ではなく、主人公の一人、水口勇佐が海女(本作では海士ではなく海女表記)として初めて素潜り漁を行う場面から始まります。

しかし、展開がスローペースかと言えば、それは全く異なります。素潜り漁は一見穏やかなミニゲームかと思いきや、漁の最中に「自分にそっくりの亡霊」のような影が現れるなど、プレイヤーの興味を引く展開を冒頭からしっかりと組み込んでいます。
さらに、勇佐が海女になった理由として、自身も被害者となった海難事故で命を落とした母親の存在が大きかったことも判明します。この事故は大嵐によって引き起こされたもので、勇佐も海中に飲み込まれ、命が危うい状態でした。

人が到底泳げない大嵐の中、誰かが自分の手を掴み、救ってくれた──その記憶を思い出した勇佐は、自分を助けたのは母親ではないかと語り、母親が人魚だったかもしえないと友人に告げます。
こうした説明文だと突飛に見えるかもしれませんが、疑問を浮かべてもおかしくない情報も提示されるため、プレイヤー側に疑問は浮かんでも拒否感までは覚えません。

また、プレイヤーの視点である主人公からの発言なので、オカルトめいた話も「一旦受け入れよう」という気持ちになりやすく、ゲームという媒体をうまく使っている印象も受けました。
こうして、母親の影を求めて海女を始めた勇佐の物語は、その後意外な方向へと転がっていきます。
■視点と時間を操る多面的構造

『伊勢人魚物語』の物語は、勇佐についても詳しく語られますが、主人公は彼だけではありません。
勇佐がいる亀島へ数ヶ月前にやってきた「白浪里」や、謎めいた主婦「志貴結命子」、ファンタジー作家のアメリカ人「アルナーヴ・バーナム」といった主人公たちもプレイヤーの視点となり、彼ら彼女らの立場から本作の物語が多面的に描かれていきます。

例えば、海難事故で帰らぬ人となった勇佐の母親について、「人魚だったのでは?」という疑問から始まり、オカルト色を一気に強めますが、結命子の視点では母親の生存説が浮かび上がり、現実的なサスペンスも匂ってきます。
ひとつの物事が視点によって変化し、真実へと集約していく流れに、シナリオの秀逸さを垣間見た想いです。勇佐の母親については、ここからさらに展開が広がっていくので、未プレイの人も安心して本作を遊んでください。

また、本作の興味深い点は、視点の数だけではありません。物語は各主人公のチャプター単位で構成されていますが、その繋がりは時系列順に進むわけではなく、時には過去の時間に戻ることもしばしなあります。
ある事件について調査する視点がある一方、別の視点ではその事件が起きる前の時間に巻き戻り、そして事件へ深く関わる張本人そのものとなったことも。こうした構成も、複数主人公だからこそなせる技でしょう。かつて調査した事件に、プレイヤー自身が直接携わる形で真実が明かされる。その体験も、まさにゲームならではの味わいです。
こうした事件と真相の関係性だけでなく、主人公同士のクロスオーバーは、物語全体を大いに盛り上げてくれます。ただの観光客として出会った人物が、別の視点では重要参考人を連れ去ったこともあり、「ここであの人物が絡んでくるのか!」と驚かされることも少なくありません。

さらに本作は、伝承や史実をモチーフにしているため、ゲーム内の資料も膨大です。ひとつひとつが興味深いのはもちろんですが、先のシナリオに深く絡む伏線が張られていることもあるため、油断がなりません。その仕込みに気づいていても、また気づいていなかったとしても、伏線が回収された瞬間にはカタルシスや衝撃が走り、プレイ意欲を加速させてくれます。
■『伊勢人魚物語』という個性を発揮した『パラノマサイト』最新作

ネタバレを極力回避するため、作品としての構造や実感を中心に語りましたが、物語自体の完成度が高く、プレイに没頭したことも告げておきます。
また、本作の物語は時系列が順序通りでなく、多面的に展開しますが、情報そのものは分かりやすく伝えられ、さらに展開の丁寧さも相まって、読みにくさや難解さやありませんでした。

その上で、情報が謎を埋める瞬間に立ち会うと、パーツがハマったような心地よさを味わえます。用意周到に積み上げられた伏線とシチュエーションが合致する、その精度の高さが満足感に繋がっているのでしょう。
前作とは共通する部分は多いものの、切り口だけでなく味付けや心のくすぐり方は、本作独自の仕上がりになっているように感じました。それでいて、『パラノマサイト』というシリーズの枠組みにはしっかり収まるという、絶妙なバランス取りにも唸らされます。

感想はプレイした人の数だけあると思いますが、『本所七不思議』の続編として高まった期待に応える以上の出来映えを、『伊勢人魚物語』が見せてくれたように思います。
その証左となる一言で、今回の記事を締めくくらせていただきます。一刻も早く、3作目を出してください、と!














