
2月5日、満を持して発売された『ドラゴンクエストVII Reimagined』(以下『ドラクエ7 Re』)は、転職システムに変更が加えられたリメイク作品として注目されています。
過去作である『ドラクエ7』のそれと比較した場合、今作はいつでもどこでも手軽に転職することができ、また「職歴システム」に代わって「職業の掛け持ち」が可能になりました。まさに現代日本の職業事情を反映した内容と言えますが、実は過去作『ドラクエ7』においても「変わりゆく価値観の投映」がゲーム内に見受けられました。
この記事では、転職システムから『ドラクエ7』そして『ドラクエ7 Re』を観察していきたいと思います。
◆転職を許さなかった「終身雇用制」

『ドラクエ』シリーズで初めて転職システムが採用されたのは、『ドラクエ3』から。この作品の発売は1988年2月です。
この時代、日本はバブル経済に突入していましたが、同時に新しい価値観が芽生えた頃合いでもありました。「新しい価値観」とは、日本の高度経済成長期を形作った終身雇用制に対する疑問です。
終身雇用制とは、言い換えれば「新卒から定年まで一貫して同じ企業で働ける男性を主軸とする制度」。大学卒業と同時に総合商社のA株式会社に入社すれば、社内での出世争いはともかくとして60歳の定年までA株式会社で勤務し続けます。よほどの不祥事を起こさない限り、解雇されることはありません。社員には手厚い保障と十分な月給、そして年2回のボーナスが用意されていました。
こう書くといいことだらけのように思えますが、終身雇用制というのは女性の力を全く必要としていない上、一度そこから離脱すると元いた会社と同格の会社で中途雇用されることは殆どありませんでした。「あの人はA株式会社を定年前に辞めた。きっと、あの人に何かしらの問題がある」という見方がされてしまうのです。現代のように、「前の職業での経験を生かして次の職場で活躍する」という概念は高度経済成長期の日本にはありませんでした。
しかし、そうした仕組みに対して『ドラクエ3』はまさに異を唱えました。あらゆる職場・職業を経験している人のほうが優秀な人材になり得るということを、ゲーム内で主張したのです。
◆「職歴」が重要視され始めた時代の作品

そして時代は『ドラクエ7』が発売された2000年に移ります。
この時代、日本はバブル経済崩壊のダメージが未だ広がり続け、大人は誰しもが苦悩していました。筆者は高校1年生。ですが、そんな小僧っ子から見ても暗いことしか口にしない大人や、子供に対して説教ばかり垂れている大人があまりにも目立っていました。「手に職をつけろ」「PCの使い方は必ず覚えろ」ということを、特に技能を持ち合わせていない中年が声高に叫んでいた光景すらありました。
この時代の大学生が、いわゆる「就職氷河期世代」です。
多くの就職難民を出したこの時代は、しかしながら敢えて良い方向に考えれば「概念の転換点」でもありました。職業とは一生をかけて尽くすものではなく、自分自身を成長させるための過程であるべき……という発想がようやく国民に共有されるようになったのです。
そうした背景を踏まえて、『ドラクエ7』の転職システムを見ていきましょう。

この『ドラクエ7』の転職システムの特徴として、「職歴」という概念があります。前職と現職の両方の長所や魔法・特技を身に着け、より強いキャラを育成することができるという仕組みです。
先頃発売された『ドラクエ7 Re』の場合、この職歴が存在せず(このあたりは3DS版も同様)、代わって導入されているのが「掛け持ち」の概念。本職とは別に、掛け持ちの職業に就くことができます。たとえば、本職が戦士で掛け持ち職が僧侶の場合、両方の魔法・特技を身に着けられるため、「剣を持って戦いながら仲間のHP回復役にも回れるキャラ」が誕生します。
◆電話一本で転職だ!

さらに、『ドラクエ7 Re』では「ダーマの水晶」というアイテムが実装されました。
過去作では、転職をするためにダーマ神殿へ行く必要があります。ところが、今作ではダーマの水晶を使うことでいつでもどこでも転職できるという極めて便利な仕組みが導入されています。これはスマホを使ってハローワークと連絡を取るような感じです。

前職で覚えたスキルは転職すると忘れてしまいますが、再就職すればそれまでのスキルを思い出すという仕組みになっています。そのため、ボス戦の前に各々のキャラの職業を組み立て直して決戦に臨む……ということもできます。
その時の都合に応じて、あらゆる職業を転々とする。これはかつて、「一つの道を極められない根性のない人の行為」と見られていました。実際に『ドラクエ7 Re』でも、「近頃の若いモンは、飽きっぽいせいかすぐに転職したがる」と愚痴っているおっさんがいます。

ですが、「転職をする理由」とは性格が飽きっぽいからではなく「自分が目指すべきものを明確に見通しているから」。自分のあるべき姿はこうなんだ! という明確な意思があるからこそ、いろいろな職場で経験を積もうと考えます。

肉弾戦にも魔法合戦にも、はたまた先の見えない消耗戦にも対応できるキャラになりたい。20世紀から21世紀へと時代が移行する中、当時の人々が心の中で望んでいた「新しい働き方」が『ドラクエ7』で実現していました。















