
ガンホー・オンライン・エンターテイメント(以下、ガンホー)が9月24日に開いた臨時株主総会で、森下一喜社長解任の決議案が否決されました。
社長解任に賛成した割合は28.35%。多くの株主が反対票を投じたことになります。ただし、取締役の解任要件を2/3以上の賛成から過半数の賛成に変更するという定款の一部変更決議案は、98.97%という高い賛成率で可決へと至りました。アクティビストのストラテジックキャピタルの要求が一部通ったことになります。
ガンホーはストラテジックとの対立に一区切りつけることができましたが、ストラテジックは継続的に提案を続ける姿勢を見せています。
ストラテジックの強引な手法を問題視する声も多く…
ストラテジックはガンホーの株式の8.5%を保有する大株主。2025年7月23日にガンホーに対して臨時株主総会の招集請求を行い、9月24日に臨時株主総会が開催されました。会社法では総株主の議決権の1%以上(定款で引下げは可能)の議決権を持ち、6カ月前から継続して保有する場合に株主提案権を持つと定められています。ストラテジックは2024年10月ごろからガンホーの株式を買い進めていました。
ストラテジックは旧村上ファンド系のアクティビストファンドで、衣料品ブランド「ニューヨーカー」のダイドーリミテッドとの対立でその名を世間に広めました。経営陣の刷新を求める株主提案を行い、ストラテジックが推薦する候補者3名が2024年6月の株主総会で選ばれました。新体制となった後、年間配当を従来予想の20倍に引き上げるなど株主還元策を発表しました。株価は急騰し、ストラテジックはそのタイミングで全株を売却しています。
7月にはストラテジックが選任した取締役1名が辞任しました。
ストラテジックは主力のアパレル事業の立て直しを目指すなどとしていましたが、結果としては経営の混乱を招いたうえ、中長期的な企業価値の向上ではなく増配による一時的な株価のつり上げを行って、全株を売却して去ったことになります。株価上昇でストラテジックを歓迎する投資家がいる一方、その強引な手法を問題視する声も聞こえてきます。
ストラテジックがガンホーの株を買い進めたのは、ダイドーの一件が終わった後のことでした。
ガンホーとストラテジックの対立は、ゲームの新興企業がアクティビストの標的になるという珍しいケースで注目を集めました。解任決議案が否決されたことで一件落着したようにも見えますが、ストラテジックは臨時株主総会後に「今後もガンホー経営陣との対話を継続し、ガンホーの株主価値向上のために正しい意志決定をしていただけるよう求めて参ります」とのコメントを出しました。
つまり、対立構造は変わっておらず、引き続きガンホーはストラテジックの圧力にさらされることになります。
なぜストラテジックは株主に丁寧な説明を重ねたのか?
ガンホーとの対立においてストラテジックは、「ガンホー「一発屋」からの再起に向けて」という特設サイトを設けるなど、ガンホーが抱えている問題点を丁寧に指摘しました。これは個人株主の興味関心を引いて味方につける意味合いが大きいでしょう。
ダイドーのケースでは、ストラテジックは一時3割を超える議決権を持っていました。しかも、南青山不動産が5%超を取得してストラテジックに味方します。南青山不動産は村上世彰氏の娘である野村絢氏が社長を務めている会社。ダイドーの一件では、アクティビスト側が圧倒的に有利な状況を作っていました。それが、やや強引とも言える手法を取れた背景にあります。
一方、ストラテジックのガンホー株の保有比率は8.5%。しかも、ガンホーは創業者・孫泰蔵氏の資産管理会社であるSON Financial合同会社が2割近い株式を保有しています。ストラテジックが孫氏に水面下で接触したかどうかはわかりませんが、長年かじ取りを任せてきた功労者である森下氏解任に、孫氏が賛成するとは考えられません。
従って、ストラテジックは個人株主に自らの主張を浸透させる必要があったのです。
森下氏の解任を求める理由は非常に分かりやすいものでした。業績が低迷して企業価値が低下しているにも関わらず、社長の報酬が上がっているというものです。
ガンホーの営業利益はここ10年ほどで8割減少し、時価総額も同じく8割縮小。一方で、森下社長の役員報酬は2.7倍となる3億円超の水準まで引き上げたとストラテジックは批判しました。これは任天堂やカプコン、コナミなどゲーム大手の経営者に匹敵する水準だと言います。
また、森下社長が開発の責任者であり、経営のトップであることも問題視しました。森下氏に権限の集中し、開発費の配分やプロジェクト進行に恣意性が出てしまうことを危惧してのものでした。
社長解任が本当に企業価値向上を導けるのか?
しかし、ストラテジックの解任議案は否決されました。
株主がどのような考えから反対したのかはわかりませんが、要因の一つに後継者がいないことがあるのではないでしょうか。
ガンホーは現在、新作タイトルを5本開発しています。『DEATHVERSE: LET IT DIE』はサービスを一時停止し、再開発にも着手しています。複雑に絡み合う開発案件に適切な人材と予算を割ける人材を外部から招聘するのは難しいでしょう。かといって、現在の役員を昇格したとして、開発責任者である森下氏に適切な意見を言える人材がいるとも思えません。
いたずらに森氏や社長の解任を決議をすれば、経営が一時的に混乱する未来が視野に入ります。
ただし、注目したいのが臨時株主総会後のガンホーの株価が軟調であること。解任決議の否決が市場からネガティブに見られている可能性があるのです。反対票を入れた株主も、株価が下がったことには少なからず失望したはず。
ガンホーは継続的に対話を続けるとしていることから、次の提案を行う可能性が非常に高いと言えます。それまでにガンホーの業績が回復し、株価が上昇基調になっていれば株主からの信頼も得られるでしょう。しかし、停滞が続けば経営体制が揺らぐことにもなりかねません。
定款を変更したことにより、取締役の解任要件を2/3以上の賛成から過半数の賛成となりました。ハードルが下がったのです。ストラテジックの今後の提案次第では、局面が大きく動くこともありえるでしょう。