
学校帰りに友だちの家に集まり、あるいはゲームセンターに立ち寄って盛り上がった当時のゲームシーン。家庭用ゲーム機への移植もあり、ゲームセンターが発祥の格闘ゲーム文化は、“不良のたまり場”ことゲームセンターに近寄れないキッズも巻き込み、空前のブームを巻き起こしました。
オンライン対戦のない当時なので、プレイ環境と言えばオフラインで集まることだけ。対戦中の友だちを後ろから眺めながら応援したり、ゲームセンターではイライラを募らせた対戦相手が筐体の向こうから灰皿を投げつけたりして、各所で微笑ましい交流が行われたものでした。
このたび「ばあちゃる」さんが実施した『ストリートファイターII(ストII)』の大会「ばあちゃるストII祭」はまさにその雰囲気を彷彿とさせるもの。地獄のようなルールでカオスな状況が生まれつつも、ヒリつくような真剣勝負から離れた、しかし決して手を抜かない熱戦が繰り広げられ、参加者はもちろん配信を見守る視聴者も大いに盛り上がりました。
リアルタイム世代にとっては懐かしい、そして『ストリートファイター6(スト6)』から入った現世代から見ればレトロで新しい『ストII』。コマンド入力一本でしのぎを削るバトルに対し、はたして現世代はどのように盛り上がったのでしょうか? 本稿では当日のようすをお伝えするとともに、90年代の格闘ゲームブームを振り返りたいと思います。

◆『スト6』シーンを盛り上げるVTuberが大集合
「現在盛り上がっているのは『スト6』けど、やはり原点といえば『ストII』!」
……ということで、『ストII』時代から腕を磨いてる「ばあちゃる」さんが『スト6』世代と『ストII』世代をつなぐ企画として「ばあちゃるストII祭」を企画立案しました。『スト6』プレイヤーには原点である『ストII』の魅力とその歴史を感じてもらい、『ストII』世代には『スト6』に興味を持ってもらう。その企画をカプコンに相談したところ担当者もそうとう喜んでいたそうで、「ばあちゃる」さんも嬉しそうに企画発表配信にて報告していました。
共同主催者の立場で「ばあちゃる」さんを支えるのは、同じVTuber事務所運営会社「アップランド」に所属する「斜落せつな(しゃらく せつな)」さん。せつなさんも『スト6』プレイヤーであり、過去3回、『スト6』の個人大会「せつな祭」を開催しています。「ばあちゃるストII祭」はその「せつな祭」のスピンオフ企画という位置づけで実施されたものではありますが、中身はやはり「ばあちゃる」さんの企画らしくユニークなルールを取り入れたものとなっていました。
出場者は、「ばあちゃる」さんと「斜落せつな」さんに加え、せつなさんが所属するVTuberグループ「ぶいぱい」のメンバー「銀棘ぐみ(ぎんとげ ぐみ)」さん、個人VTuberの「千羽黒乃(せんば くろの)」さん、eスポーツ事務所「REJECT」所属の「玉餅かずよ(たまもち かずよ)」さんと「とおこ」さん、VTuber事務所「すぺしゃりて」所属の「本阿弥あずさ(ほんあみ あずさ)」さん、そして男性VTuberグループ「ホロスターズ」からは「アルランディス」さん、「夜十神封魔(やとがみ ふうま)」さん、「夕刻ロベル(ゆうこく ろぺる)」さんの3名が出場し、合計10名で優勝を争いました。
驚くのは実況と解説で、実況にeスポーツキャスターの「アール」さん、解説役として同じくeスポーツキャスターの「ハメコ。」さんを迎えるという本格開催に。これにはせつなさんも思わず震えたそうです。
ルールは敗者復活ありのダブルエリミネーション方式。トーナメントを勝ち上がり、敗者復活トーナメントを勝ち上がったプレイヤーと最終的に対決します。おもしろいのは「ばあちゃる」さん式の独自ルールで、ギャラリーのVTuberたちがお嬢さま言葉で応援したり、陽キャ風のキャラ付けではやし立てたり……。語尾をその場で決めるため、即興で解像度が低く、思わずアールさんとハメコ。さんも手を叩いて爆笑する場面が何度もある、なんとも混沌(カオス)を極める内容になりました。
しかしそのカオスこそが本大会の注目ポイントであり、いかにして『ストII』の楽しさを伝えるかという部分。
おそらく「ばあちゃる」さんが苦心したところだと思いますが、前述した『ストII』世代にとって思い出深い、友だちの家やゲームセンターで盛り上がったあの雰囲気を再現するもので、この大会ならではの楽しみでした。



◆コマンド入力ってやっぱ楽しい!
今回出場した皆さんは、そのほとんどが『スト6』から入った「モダン」世代です。そのため『ストII』に触るのはこの大会がほぼ初。逆転要素を多く盛り込んだ近年の『ストリートファイター』シリーズとはまったく異なるゲーム性に、当然のことながら楽しく振り回されていたようでした。
しかも今回は「プレイアブルキャラクター12名を手駒にして、1戦ごと使用キャラを変更。一度使用したキャラは使えなくなる」という特殊ルールつきです。通常の大会のように自分に合ったキャラクターに慣れておくことができないこともあり、ぶっつけ本番で各キャラを使用する場面が多く見られました。
……するとどうなるのか?
『ストII』はコマンド入力オンリーのフィジカルゲームです。まずコマンドを覚えていないと話になりませんし、覚えても必ず入力成功するとは限りません。手の内の読みあいやコンボなどはその次のステップ。そのため試合がはじまるや否や、皆さんキャッキャと歓声を上げながら“古のゲーム”に一喜一憂していました。
『ストII』世代も学校などで、「昇竜拳ってどうやって出すの?」「十字キーの右・下・右斜め下を押した直後にパンチボタンを素早く押せばいいんだよ」「いや、わかってるけど出ないんだよ!」という会話を何度もしたことがあるはず。試合内容は実際にアーカイブをチェックしていただきたいので割愛しますが、両者まずは技を出そうと頑張るものの、タイムリミットもあるため諦めて殴りあいに移行する。まさにコマンドを制する者が試合を制する、そのような内容でした。
やはり「ばあちゃる」さんのように『ストII』に親しんだことがある人間のプレイは、その“こなれた動き”を見れば一目瞭然です。初見勢がコマンド入力や立ち回りで四苦八苦する中、落ち着いてガードしたり、連続技で畳みかけたりするなど、体に染みついた動きと視野の広さでお手本を示してくれました。あの頃、ゲームセンターでは皆あんな動きをしていたものです。それでも普通にコマンド入力を失敗してしまうところが“『ストII』あるある”なのですが……。
そんな中、第1試合に出場した玉餅かずよさんは、『ストII』世代が懐かしくなってほしいという想いから事前に各キャラについて勉強を。嬉しくなるような準備をしてくれていて、初見プレイで挑む出場者とともに大会を盛り上げてくれました。
配信を盛り上げたと言えば、やはり実況・解説のアールさんとハメコ。さんもさすが本職といったところ。アールさんは出場者のプレイスキルを見極めたうえで、バランスを取るためにハメコ。さんのアドバイスがもらえるシステムをアドリブで投入。ハメコ。さんの膨大な知識量を「知識の泉」と呼び、『ストII』慣れしていない出場者たちのアシストをしてくれました。
ちなみに『ストII』には複数のバージョンが存在します。今回大会で使用した『ストII' TURBO』は『ストII』のアップデートバージョンのひとつ。ゲームバランスの調整に加え、ゲームスピードを変えられるという特性を持っています。『スト6』でも人気のキャミィはさらにその後のバージョンで初登場し、春麗に続くヒロインとして人気を二分していました。
余談ではありますが、『ストII』の前作となる『ストリートファイター』は、バカでかいボタンを力任せに叩くというゲームセンターならではの仕様となっており、ストーリーは繋がっているもののゲームとしてはまったくの別物でした。そのため当時の格ゲーブームは、2作目なのに『ストII』が原点とされています。
※アニメ映画『ストリートファイターII』は、『ストリートファイター』のラストバトルから物語が始まっています。
かつて『ストII』は瞬く間に当時のキッズやゲーマーを魅了し、あらゆるアニメ作品が格闘ゲームになった時代がありました。ハリウッドでは実写映画が制作され、日本ではアニメ映画の『ストリートファイターII』が大ヒット。主題歌の「恋しさと せつなさと 心強さと」も、当時の“小室ブーム”もあってゲームファン以外にも愛されています。
『スト6』でモダン操作が導入され、それが新規プレイヤーの呼び水になりましたが、やはりクラシック操作の面白さは特別なもの。モダンとクラシックの是非はともかく、次は3Dでの配信を実施していただき、その手元の動きも含めてまた皆で『ストII』を楽しめたら……そんな妄想さえさせてくれる良い大会になったのではないでしょうか。
配信アーカイブは、「ばあちゃる」さんのYouTubeチャンネルなどで配信された大会本編はもちろんのこと、2度の告知配信、そして各出場者のYouTubeチャンネルでも個別視点があるので、ぜひチェックしてみてください。