■ポストアポカリプスな世界観は、コスト抑制が理由!?

対談は作品内容について迫る流れとなり、ゲームの背景に終末的な題材を採用した理由をついて問われると、まずキム氏が「ポストアポカリプスのゲームを作るとなると、まず人間を全滅させるところから始まるため、登場人物の数を最小限に抑えられます」と回答。自分たちのような小規模スタジオにとっては、重要な選択肢だと述べます。
このアンサーに応える形で、ヨコオ氏が「コストっていう意味ではすごく似た理由で廃墟を選びました」と言及します。さらにヨコオ氏は、「ディティールを作るのが大変」と告げ、「現代社会とかをまともに作ると看板とかはいちいち全部作らないといけない」「適当にごまかせるっていうか、量産ができるという理由で、未来の背景を選びました」とも明かしました。

また余談として、「背景に読める看板とか読める文字を書くと、ローカライズのお金がかかるってプロデューサーからすごく文句を言われるので、背景に文字を全然書けないです、最近」「つまり廃墟になったのはプロデューサーである齊藤陽介氏のせいです」と指摘するものの、齊藤氏からは「違います」との即答が。
世界観については、ユ氏から「好みも大きいと思います。私自身、一番好きな漫画やゲームの世界観が全部ポストアポカリプスなんです。自分が好きなものを作る時が、一番面白いものが作れるのではと思います」と、異なる視点を述べる場面もありました。
■『NIKKE』コラボの影響で、コスプレイヤーにも変化が?

それぞれの作品から受けた影響のひとつとして、ヨコオ氏は「『NIKKE』とコラボさせていただいたら、『NieR』のコスプレイヤーさん、特にセクシー系の方々が全員『NIKKE』のコスプレをし始めて、『NieR』のコスプレしなくなって……コラボしなきゃよかったな、と反省してます」と、ユーモアを交えてその反響について語ります。
一方、キム氏からは「私のSNSのタイムラインは、常に2Bでいっぱいです。いつか、あのような素敵なキャラクターを作ることが私の夢です」と、こちらも『NieR:Automata』の影響の大きさを実感と共に明かしました。
キャラクターデザインについて話が移ると、ユ氏は「『NIKKE』はデザインに規則や統一性があるというよりは、最終的にキャラクターの個性を表現することが目標です」とし、全体のデザインよりも各キャラクターをどう表現するか、自由に想像することを重視していると述べます。

『NIKKE』のキャラクターについては、「私も、最初は一緒にディレクションを進めていました」とキム氏が告白。当時はイラストを中心に進めていたものの、シナリオの重要性が高まるにつれ、「キャラクターが設定とどれくらい合っているか」「その設定に基づくストーリーを外見でいかにうまく表現するかが重要になってきた」とのこと。
そうした過程を経て、「今は私ではなく、妻のKKUEMがディレクションを担当し、プロジェクトを進めています」と体制の変化を説明しました。
さらに、ライブサービスゲームはユーザーからのフィードバックを受け、それを反映するサイクルが非常に速く、開発陣の実力が飛躍的に向上すると述べ、「僕が絵を描いて見せてもほとんど、妻のKKUEMに却下されてしまいます。僕の絵がなかなかゲームに登場しないのは、このような理由からです」といった開発秘話をポロリ。「何でこんな話してるんだろう…恥ずかしいですね」と、苦笑を浮かべて締めくくります。
■終末的な物語をどのように描くか、三者三様の姿勢

3作品のいずれも終末的な物語を描いており、こうした作品における物語の描き方に関する話も盛り上がりを見せました。
倫理的なジレンマについて問われたユ氏は、クライマックスで感情的なバランスを崩壊させることで、プレイヤーは悲しみや喜びの感情を抱くとした上で、「崩壊した感情のバランスは自然と回復するのですが、似たような感情を感じ続けると鈍感になる」と述べます。
そこから、「『勝利の女神:NIKKE』では、こうして崩れた感情のバランスを回復させるため、イベントやキャラクターの順序を適切に設計しています」と、緩急について明言。こうした手法を、韓国では「甘いとしょっぱいの連鎖」と表現すると説明し、そのバランス調整を意識していると語りました。

ヨコオ氏も、「甘いしょっぱいリズムみたいなことは、考えるか考えないかというと考えはします」と告げつつ、「僕はやっぱり一人の人間なんで、ワンパターンにどうしてもなってしまうため、それをいつも警戒してます」「ストーリーとか盛り上がりに一定のリズムが出てきちゃうんですけど、なるべくそれを破壊しようと頑張っています」と、創造のための破壊を意識している旨を明かします。
続いて齊藤氏は、自身がプロデューサーを務める『NieR:Automata』と『ドラゴンクエスト』シリーズを例に挙げ、「圧倒的な違いは、『ドラゴンクエスト』は完全懲悪なお話で、『NieR:Automata』って必ずしもそうではない」と説明し、『NieR:Automata』が世の中に「初めはどう受け入れられるんだろうな」と思っていたと当時の胸中を口にします。
また、「どっちが善でどっちが悪かみたいなものは重要ではない、というところが好きと言ってくれる人たちが意外と多かった」と、ちょっとした驚きがあったとも語っています。
この話題の中で、ストーリーを明確に整理することは難しいものの、そこを明確にせず考える余地を残すことの方がより難しい──と持論を述べたキム氏は、「そこを『NieR:Automata』は上手に扱えていると思います」と賞賛。

そして、個人的に印象的だった点として「『NieR:Automata』だけでなくヨコオ先生の作品では、キャラクターやストーリーがこの上なく最悪な状況に追い込まれた後、さらに追い打ちをかけるという展開が少なくなく、それがまた衝撃的だった記憶があります」と続けました。
さらにキム氏は、「私たちの作品を「甘いとしょっぱい」の連鎖だとしたら、先生の作品は苦くて苦くて、さらにもっと苦い、そんな流れで進むケースが多い」「そういった部分をどうやって実現させるのか、あの人の深淵の果てはどこなのか、そういったことを考えさせられます」とも語り、クリエイターへの敬意を示します。
一方、その経緯を向けられたヨコオ氏は「『NIKKE』の話の方がよっぽど暗いと思うんですけど」と答えますが、「種類が違う暗さとでも言いましょうか」とキム氏が述べ、ユ氏も「実際、ヨコオ先生の作品に比べたら暗いなんて言えませんよ」と明言。最後に「私たちの作品は何と言いましょうか、ラブコメディだと言えますね。ヨコオ先生の作品に比べたらの話ですが」とキム氏が後押しし、互いにそれぞれの作品に向けた想いの一端を露わとしました。
クリエイター同士による濃密な対談がまとまった動画は、その内容も濃く、ファンならずとも引き込まれる内容がぎゅっと詰め込まれていました。
今回取り上げた範囲以外にも、興味深いやりとりがたっぷり盛り込まれているため、気になる人は動画を直接チェックしてください。
また動画の締めくくりにて、『勝利の女神:NIKKE』×『NieR:Automata』コラボの復刻が発表されました。復刻イベントの開催日は、7月3日とのこと。『Stellar Blade』との相互コラボを遊んだ後は、『勝利の女神:NIKKE』×『NieR:Automata』コラボの復刻版を楽しみましょう。
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