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【hideのゲーム音楽伝道記】第53回:『いけにえと雪のセツナ』 ― 雪の世界の旅を彩る、繊細で切ないピアノの音色

インサイドをご覧の皆さま、こんばんは。ゲーム音楽大好きライターのhideです。ゲーム音楽連載「hideのゲーム音楽伝道記」第53回目の今回は、『いけにえと雪のセツナ』をご紹介いたします。

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インサイドをご覧の皆さま、こんばんは。ゲーム音楽大好きライターのhideです。ゲーム音楽連載「hideのゲーム音楽伝道記」第53回目の今回は、『いけにえと雪のセツナ』をご紹介いたします。


『いけにえと雪のセツナ』(以下『セツナ』)は、2016年2月18日にスクウェア・エニックスからプレイステーション4およびプレイステーションVitaで発売されたRPGです。開発はTokyo RPG Factoryが担当しました。


なお、2017年3月3日には、任天堂の新ハード「Nintendo Switch」のローンチタイトル(本体と同時発売のソフト)としてリリース予定です。

本作は、腕利きの傭兵である主人公「エンド」が、いけにえとしての運命を背負った少女「セツナ」や護衛隊の仲間たちとともに、いけにえの儀式が行われる“最果ての地”を目指して旅をするRPGです。本作に登場するフィールドはすべて雪に覆われていて、一面がまっしろの雪世界。エンドたちは、様々な人物たちとの出会いやモンスターとの戦いを繰り返しながら、最果ての地を目指して進んでいきます。

さて、本作『セツナ』で非常に大きな魅力なのが音楽です。本作の音楽を手掛けたのは、作曲家の三好智己(みよし・ともき)氏。 作中で奏でられる音楽は、全編ほぼピアノのみで構成されていて、雪に覆われた世界での冒険を鮮やかに彩ります。一面の雪世界と、“いけにえ”となるセツナの運命を切なく彩る繊細なピアノの旋律は非常にうまくマッチしており、絶品の美しさですよ。

僕は2015年の秋ごろに本作のPVを見てピアノで奏でられる音楽を聴いた時、そのあまりの美しさに、ひと目ぼれならぬ“ひと耳ぼれ”をしたことをはっきりと覚えています。その繊細で透きとおるような音色と旋律はあまりにも美しく、感情を揺さぶられましたね……! そしてPS4本体を購入し、実際に『セツナ』を最後までプレイしてその世界に触れてみたのですが、とっても綺麗で胸に沁みわたる音楽が多かったです。

全編ほぼピアノのみとは言っても、各シーンによって強弱や緩急がつけられたバリエーション豊かなピアノ楽曲がそろっており、しっかりと物語の演出がなされていてプレイヤーを耳でも楽しませてくれますよ。さて、それでは本作の音楽をピックアップしてご紹介していきましょう。
※本文中、各楽曲の曲名に併記している数字は、オリジナルサントラ(後述)のディスク番号および曲順です。

◆雪の世界の旅を彩る、繊細でせつないピアノの音色


●「Beginning of the End」(1-01)
タイトル画面で流れる楽曲です 。しんしんと降る雪をバックに流れる、スローテンポで静かにせつなげに響くピアノの音色が、“いけにえの旅”の物語の幕開けを彩ります。その後、オープニングイベントのあと、エンドはモル島という島へ向かい、セツナと出会うことに。


●「Winter journey's tale」(2-31) ≪hideイチオシ!≫
モル島の北端にある「名残雪の石碑」での、エンドとセツナの出会いのシーンで流れます。せつなさに満ちていながらも、ふんわりと包み込まれるような優しい旋律が絶品のこの楽曲は、セツナの信念やひたむきさが感じられる印象的なもので、セツナのテーマ曲と言ってもいいかもしれません。このシーン以外にも、物語の要所要所で流れ、物語を盛り上げてくれます。ちなみにこの楽曲は、本作の公式サイトをPCで閲覧した際に聴けますので、ぜひお聴きになってみてください。個人的には本作の中で一番好きな楽曲です。


●「Tender glow」(1-06)
セツナの家がある村、「はじまりの村 モル」で流れる音楽です。素朴で穏やかな旋律は、セツナが帰ってくるべき場所としての癒しがあると同時に、“ここにはもう二度と帰って来られないかもしれない”という、いけにえの運命を背負った少女のせつなさを印象づけてくれます。

●「The winter breeze」(1-05)
フィールドマップのモル島で流れる楽曲です。一聴するとやさしく穏やかな雰囲気ではあるものの、少し哀愁を帯びた旋律になっており、希望があるとは決して言えない“いけにえ”としての憂いを帯びた旅の始まりをプレイヤーに感じさせてくれます。

●「Path of redemption」(1-15)
かつて“いけにえ”として旅をしたとある人物の護衛を務めた剣士、ヨミ関連のイベントで流れる楽曲です。彼は今回のセツナたちの旅にも同行することになるのですが、彼はとある過去を抱えており、せつない曲調の中に彼の苦悩や辛さがにじみ出ています。しかしこの楽曲の旋律は、せつなさだけではなく勇ましさも併せ持っており、「セツナの旅の護衛は、絶対に最後までやり遂げたい」という彼の決意を感じさせてくれて印象的ですね。
※「Path of redemption」は上記のPVで聴くことができます。ぜひお聴きになってみてください。

ご紹介してきたように、本作の楽曲は全体的にいけにえの旅の“せつなさ”を表現した楽曲が多いです。ただ、せつない楽曲ばかりというわけではなく、アップテンポで流麗に響く「Endless crusade」(1-10)や、フィールドマップのウカテイナ領で流れる勇壮な楽曲「March of the brave」(1-13)、コミカルなイベントで流れる楽しげな印象の楽曲「Lighthearted」(1-30)といったバリエーション豊かな楽曲がそろっています。

◆ドラムやパーカッションも入って盛り上がるバトル曲


RPGに欠かすことの出来ない大切な要素、バトル。さきほど、「『セツナ』の音楽はほぼピアノのみ」と書きましたが、一部例外が存在します。それがバトル曲なのです。バトルの際には、ピアノのほかにドラムやパーカッション、ベースが加わってより厚みのある演奏となり、敵とのバトルを盛り上げてくれますよ!


●「No turning back」(1-08)
『セツナ』でいちばん聴く機会が多い、通常バトルの音楽です。ピアノがメインメロディを奏で、バックには終始ドラムやパーカッションが入っていてアップテンポに展開。ゲーム中何百回と聴くことになりますが、耳に心地よい軽快さがあって、何度聴いても飽きない優秀な通常バトル曲だと思います。


●「Relentless advance」(1-18)
ゲーム中、エンドたちの前に立ちはだかるボスとの戦いで流れる楽曲です。イントロから重厚なドラムやパーカッションが打ち鳴らされ、駆け抜けるように響くアップテンポのピアノ。その絶妙なかけあいによる演奏は、ボスと対峙する大きな緊張感と、それに負けずに果敢に立ち向かっていくエンドたちの雄姿が演出されているかのようです。

●「A fantastic encounter」(1-28)
旅の中で時々遭遇することがある、特殊変異したモンスターとの戦闘で流れます。個人的にはバトル曲の中でいちばん好きですね! この曲が流れてくると、妙にテンションが上がってしまいます(笑)。イントロから高速のアルペジオで展開されるピアノ、そして入ってくる「Winter journey's tale」のフレーズがじつに流麗な響きで非常に美しく、素晴らしいです!

このほかにもバトル曲はいくつか用意されていますので、ぜひお聴きになってみてくださいね。

◆コトリンゴ氏が歌う、やさしくせつない「わらべ歌」


「『セツナ』の音楽はほぼピアノのみ」という書き方には、もうひとつだけ例外があります。それは「歌」が入っていること。ゲーム中、とある村の子どもたちの間で歌われているわらべ歌があるのですが、この歌を、最近は映画『この世界の片隅に』の音楽を手がけられたことでも著名な音楽家のコトリンゴ氏が歌われています。素朴ながらもやさしさや暖かさがあり、そして絶妙なせつなさをも感じさせるコトリンゴ氏の繊細な歌声は非常に魅力的で、重要な意味を持つわらべ歌をより印象深くさせています。

なお、このわらべ歌にはインストゥルメンタルバージョンの「Beyond the snow」(2-09)もあります。子どもたちがわらべ歌を歌うイベントが起こる村の家の中で流れるのですが、こちらも素敵なので、ぜひあわせてお聴きになってみてくださいね。また、このわらべ歌は本作のスタッフロール(2-32 「Staff roll」)でも流れるのですが、歌のあとには「The winter breeze」と、「Winter journey's tale」のピアノソロが響きます。これが息を呑むほど美しいので、是非聴いてみていただきたいです……! 切なくも美しく物語を締めくくってくれるのが印象的でした。


◆「ほぼピアノだけのゲーム音楽」という大胆な挑戦


ほぼピアノのみで奏でられる本作の音楽は、「雪に覆われた世界で紡がれる、いけにえの旅」という本作の世界観を演出する要素として非常に効果的に作用しており、かつ切なさに満ちたゲームの雰囲気にうまくマッチしています。「ほぼピアノだけのゲーム音楽」という大胆な挑戦は、功を奏していると思いますね。

本作の音楽は、最初から最後まで本当にほぼピアノオンリーなので、人によっては、「ピアノだけだと、音のバリエーションが少なくて物足りないなぁ」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。いろんな楽器を使えばメリハリを効かせられ、バリエーションに富んだ音楽を作れることは確かです。しかし敢えてそれをせず、ピアノだけでひとつのRPGの音楽を作りあげたという点に、本作の凄みと個性があると思います。個人的にも、「ピアノだけで、よくここまでたくさんの楽曲を作られたものだ……!」と感嘆しました。あえて「制約」を設けて音楽を作るという姿勢は、昔のファミコンなどのスペック的な制約があるゲーム機の中で、最大限に工夫して作られていた時代のゲーム音楽を彷彿とさせる部分もあるように感じますね。

『セツナ』の音楽は、音楽単体として聴いても良質なものが多いです。音楽は公式サイトやPV、後述のサントラなどでお聴きになれますので、ゲームを未プレイの方でも、ぜひ聴いてみていただきたいです。そしてもし機会があればゲームのほうもプレイしてみていただきたいですね。本作のプレイ時間は約20時間ほどで、長すぎず短すぎずの程よいボリュームなので「最近忙しくてRPGはプレイできてなかったなぁ」という方でもプレイしやすいかと思いますよ。

ちなみに、『セツナ』を作曲された三好氏は、まだ23歳というお若い方なのです。個人的には『セツナ』で一気にファンになったので、今後のご活躍が楽しみですね……!

◆『セツナ』の音楽を楽しめるCD情報




本作の音楽CDとしては、ゲーム中の音源を収めたオリジナル・サウンドトラックのほか、アレンジ盤の『Winter's End - いけにえと雪のセツナ Original Soundtrack Collection』が販売されています。『Winter's End』は、『セツナ』の楽曲を、作曲者の三好氏がピアノソロ演奏用として「再作曲(リ・コンポジション)」を行ったものを収録したアルバムです。こちらもご興味があればお聴きになってみてくださいね。なお、本CDには演奏用の楽譜データ(PDFファイル)が同梱されていますので、『セツナ』の楽曲を演奏してみたいという方は、ぜひチェックしてみてください。

◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆

最後に……『セツナ』のシナリオは、おそらくプレイヤーによって賛否が分かれる部分があると思います。正直に言うと、個人的には主人公についての深い掘り下げがあまり成されていないところが惜しく感じたのですが(主人公=プレイヤー、ということであえてそうしたのかなとも思いますが)、全体的には楽しくプレイできた作品でした。そして、『セツナ』の世界を彩る素敵な音楽たちに出会えたことも嬉しかったです。

当然のことですが、ゲームがなければゲーム音楽は存在できません。新しいゲームが作られなければ、新しいゲーム音楽は生まれません。Tokyo RPG Factoryさんの公式サイトに掲げられている「あの頃(隆盛を極めた90年代)のRPGを取り戻す」という志は素晴らしいと思いますので、もしまた新作RPGを製作する機会があれば、より“人の心を震わせる”、“人の心に残る”作品を世に送り出していただければと、RPGを、ゲームを愛するいちファンとして願っています。

【筆者プロフィール】
 hide / 永芳 英敬

ゲーム音楽ライター&ブロガー。ゲーム音楽作曲家さんへのインタビュー記事、ゲーム音楽演奏会のレポート記事など、ゲーム音楽関係の記事を執筆しています。サンホラ(Sound Horizon)好き。カラオケに行くと必ず「朝と夜の物語」を歌う!
[Twitter] @hide_gm [ブログ] Gamemusic Garden

(C)2016,2017 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. Developed by Tokyo RPG Factory
《hide/永芳英敬》
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