
──開発における苦労などはありましたか?
伊藤:……そ、そうですね。
一同笑い
鈴木:ボードゲームは人がルールを解釈して進めていくわけですが、それをプログラムでやる場合はきちんとルール化しなければならないわけですよね。それ以外にもフィギュアの絵をどうするか、フィギュアをどこにしまうか、デッキをどう作るかといったことなど、アナログとは違うアプリならではの必要なことについて議論して試行錯誤を繰り返しましたね。
伊藤:いくつかアプリならではの変更が必要でその点は相談させていただきましたが、『TFG』のルールを再現するというところは特に力を入れました。また、緻密に定義が行われていないとAIが作れないので、時間をとってはじめの段階でそこを決めましたね。
鈴木:『ポケモンコマスター』はひとつひとつのルールについて、どこが楽しいのか伝えるのが少しむずかしいかもしれませんね。
大山:ユーザーの反応を見てると「そうか、そう捉えるかー」みたいなことがあってちょっと凹みますね(笑)。
三浦:そうですね、「AIが弱い」などという感想もいただくのですが、3つ目のホテルあたりから真価がわかりますよ。本当はAIには強すぎるくらいの能力があるものの、徐々に楽しめるように調整しています。

大山:少しずつフィギュアの動かし方を学んで行くと、AIの強さや良さがわかるようになるはずです。どのポケモンにどのポケモンを当てれば有利かは、敵AIや味方AIの駒の動かし方を見ていると色々学べると思いますね。むやみに自分からバトルをしかけないとか。
鈴木:最初のデッキを使ってAI任せにして進んでいくとそれなりの動きはできるのですが、ある時点で突然勝てなくなります。しかし、対戦相手のデッキに合わせて自分のデッキを組み替えるとAIがそこを読み取り、勝てるようになるわけですね。そういうプレイヤーとAIの協力の実現が特に面白いところですよね。
鈴木:あと、実はこのゲーム、登場するポケモンすべてが活躍できるゲーム性があるんです。多くのポケモンたちを活かせるというのは複雑で難しくもあるので、それをいかに作り上げていくのかというのも苦労しましたね。
──現在発見されているだけで721種類もいるポケモンたちのフィギュアを考えるのは大変なことですよね。

大山:どのポケモンにどの能力をどの確率で持たせるかがデザインするうえで肝になっているのですが、そこがたいへんでしたね。
鈴木:『ポケモンカードゲーム』でも、普段はあまり脚光を浴びないポケモンが活躍したりすることがありますよね。本作でいえば「オニスズメ」がそれらしく活躍していたりと、ポケモンと大山さんのゲーム哲学が合致したデザインを感じ取れます。

『ポケモンコマスター』に登場する「オニスズメ」のフィギュアは、「とぶ」というワザをうまく使うと一気に勝利できるため、プレイヤーたちの間から注目を集めています。ただし、当然ながら対策も用意されているため、場合によっては飛ぶことが仇になることも。
大山:伝説のポケモンなど人気なポケモンだけではなく、地味なポケモンであっても自分が好きなポケモンが活躍できるように能力のデータが作っています。それは、ファンにとっても嬉しいと思うんですよね。『ポケモンコマスター』でも、レア度が高いポケモンもそうではないポケモンも、それぞれに役割を持たせてあげたいと考えています。スピードが遅い「ビードル」も敵に回すと毒が意外と厄介だったりみたいにね(笑)。
三浦:レアリティが必ずしも強さではなくて、組み合わせてコンボを見つけていくと強力になったり、「プレート」をうまく使うと活躍したり、そういうデッキ作りも面白みのうちという考え方で作っています。
鈴木:たとえば「パルキア」は、バトルではすごく強いけれどもフィールドに出しにくいというデメリットがあるわけです。そういう時は「エモンガ」のボルトチェンジを使ったり、プレートで位置を入れ替えたりするとうまく活躍するわけですね。

プレートは、デュエルの最中に使うことができるアイテムのひとつ。自分のターンで使うことにより、ポケモンのフィギュアたちにさまざまな効果をもたらします。たとえば「ポケモン入れ替え」であれば、ちょっとしか移動できないものの強力なワザを持つポケモンを、一気に前線に移動することもできます。
──そういったゲームデザインに関してはどのように作り上げているのでしょうか?

大山:フィギュアを回して遊ぶ(ルーレットで出目を決める)とか、ボードの設計やポケモンセンターなど基本的なルールは僕が主に考えました。ルーレットのデータを考えたりするのは三浦さんが多いですかね。まあ、ルールも駒のデータもほぼふたりで考えたと言って良いですが、比率はそんな感じでしたね。データのアイデアは持ち寄っていましたが、「これはポケモンらしくない」とか三浦さんに言われたり(笑)。
三浦さんはポケモンのことをよく知っているので、コマの円の区切りも工夫していたりしましたね。たとえば「リザードン」だと、後ろに「アイアンテール」というワザがあって尻尾から繰り出す様子をイメージしていたり。なかなか気づかないとは思いますが、そういうこだわりがあるんです。

鈴木:このゲームは相手のゴールに行ける4つのルートがあるのですが、そこで待ち構えるポケモンに対してどのポケモンを出していくかが戦術的に大事なところですね。相手のデッキに対してどういうデッキで挑むか、敵のフィギュアに対してどのフィギュアで対抗するのかという、組み合わせが重要なんですよね。
三浦:対抗策の裏をかかれたりとかもありますよね。将棋と似ているかもしれませんが、相手にわざと誘うような一手を打ち……。
大山:そして別のルートを攻めるというような。あと、3マス動けるけれどもわざと途中で止めて相手を惑わせるとか、いろいろな戦法があるんです。

三浦:たとえるならば、スポーツに近いイメージで作っていました。『ポケモンコマスター』は最終的にゴールを取れば勝ちなので、1点取れば勝てるサッカーやラグビーみたいなものでしょうか。その1点をいかに取るか、どこまでリスクを取って攻めるか、あるいは慎重に守るか……という遊び方を考えて作りました。
大山:相手が対抗するフィギュアを当ててきた時にプレートでポケモンを入れ替えて自分に有利な組合せに変えるとかは、サッカーでいうところの“サイドを変える”ような感じでしょうか。あと、フィギュアの攻撃には運が絡みますが、単純に運に頼るのではなく「この確率なら攻撃しても大丈夫だろう」というところまで考えてもらうといいと思います。野球でいえば打率を見てアテにするような感じでしょうか。
──論理的でありながら運も絡み、かつそのあたりも考慮して戦うというあたり、『ポケットモンスター』シリーズの対人戦にも似たものを感じました。
三浦:やはりポケモンが好きな方にも遊んでいただくゲームなので、わかってないと思われないようなゲームに仕上げていきました。
大山:そういえば、「タイプ相性がなくてポケモンらしくない」と言われることもあるようなのですが、そこに関しては悩んだ挙句やめました。タイプを示すマークもあって一応バトルにも関係してくるのですが、弱点というものを採用するとあまりにも複雑になってしまうんですね。タイプ相性を知らなくとも遊べるようにしたかったですし、単純にアナログの時は情報を載せる場所がなかったという切実な問題もありました。

三浦:わかりやすさといえば、ポケモンのワザを表すルーレットにも気を使っています。円グラフのようになっていれば直感的にわかりやすいと思いますし。アプリなら別の表現もありえたと思うのですが、今回はうまく元のデザインを汲んでいただきました。