大阪出身で大阪に本社、東京に事務所を構え、火曜から金曜まで東京、週末を大阪で家族とすごし、月曜に大阪本社に出社し、翌日から東京へ・・・。こうした生活をカプコン時代から20年近く続けているという稲船氏。その理由は「地元である大阪にこだわっているから」といいます。「東京は世界に羽ばたくための踏み台に過ぎない。名古屋の人も名古屋をすごく大事に思って欲しい」
大学や専門学校が集積し、優れた人材を多く排出している名古屋。しかし、残念ながら大阪のカプコン、福岡のレベルファイブといった世界的なゲーム企業が、名古屋には存在しないと言います。それは決して不可能ではないし、コンシューマからモバイル時代になってチャンスは拡大しました。その理由を「世界に向かってゲームを作るという気持ちが、名古屋の人に少ないからでは」と分析します。
地方、すなわち東京以外の都市に住んでいることを、無意識のうちに「運が悪い」と思っているのではないか・・・稲船氏は続けました。しかし世界中のイベントで講演をして、遠隔地に行けば行くほど聴衆から「熱い思い」を感じると稲船氏は言います。一番冷めているのが日本で、その中でも東京は「最も冷めている」のです。理由は明らかで、東京は情報の集積度で恵まれすぎているからです。
「世界にはゲーム会社がなくても、ゲームを作りたいという熱い思いを持っている人たちがたくさんいます。彼らこそ『運が悪い』わけです。しかし、それをバネに努力を続けた結果、そうした国々から、おもしろいゲームがたくさん生まれています。方法論として東京で仕事をするのは良いでしょう。しかし、いつか、いつか名古屋で成功するという思いを持ち続けて欲しい」
ここで稲船氏はカプコンでの新人時代を振り返りました。周囲から「運が良い」と思われることの多い稲船氏ですが、実際は「運が悪い」のだそうです。入社後に配属されたのはファミコンのオリジナルゲームを開発するチームで、6人中3人が新人、残りも若手でした。当時のカプコンはアーケードゲームが主流で、ファミコンは移植部隊にすぎませんでした。しかし、この逆境をチャンスに活かしたのです。
また、あるとき上司から「お前はすごくがんばっているから、キャラクターデザイナーだけど部長待遇にしてやる」と言われたそうです。当時のカプコンではプランナーかプログラマーしか部長になれない内規がありました。どうして職種で、そのような差別を受けるのか・・・。その後プロデューサーを経て、開発統括者になった稲船氏はこの内規を撤廃します。「運の悪さ」をバネに努力した結果です。
稲船氏は「ブサメンで女の子にもてようと思ったら、思いっきり優しくするなど、努力しなければいけない」と言います。それでも一握りの「イケメンで努力する奴」には敵いません。そういう人には諦めるしかないが、ほとんどのイケメンは努力しないので、勝つチャンスが出てきます。「運がいい人は努力しない、自分は運が悪くて良かったと、後になって気がついた」・・・そう語ります。
アプリ時代になって、ゲームを作るのにテクニックはそれほど重要ではなくなったと稲船氏は言います。それよりも、どんな新しいものや、おもしろいものを作るかという気持ちの方が重要・・・。「コピーで通用するからコピーでいい」では将来必ず行き詰まる。10年後の未来をどう考えながら日々をすごしていくか。「負けない」という強い気持ちを持って取り組んでほしい。それが「気持ちを込めてゲームを作るということ」とまとめました。
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