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【E3 2012】AIとアドベンチャーの幸せな融合、サバイバルホラーアクション『THE LAST OF US 』プレビュー

現世代機が発売されて、早6~7年が経過。当初は斬新だったシェーダーによる表現も、今ではそこそこ「枯れた」技術になってきました。ハードウェア性能が変化しない以上、グラフィック表現も飛躍的な進化が難しくなってきています。

ソニー PS3
現世代機が発売されて、早6~7年が経過。当初は斬新だったシェーダーによる表現も、今ではそこそこ「枯れた」技術になってきました。ハードウェア性能が変化しない以上、グラフィック表現も飛躍的な進化が難しくなってきています。

その一方、新たなフロンティアとして期待されているのがゲームAI分野です。AIというと反射的に「人工知能」を連想しますが、ここでは「自動制御」に近いイメージで捉えた方が正しいかもしれません。

特にゲームAI研究は過去10年間で、FPSという共通のプラットフォームを土壌に、急速に進化してきました。FPSのシングルプレイ時で、いかに人間らしい判断や動きを敵キャラクターにさせるかは、ゲームの完成度に大きな影響を及ぼします。『FEAR』『HALO』『KILLZONE』・・・。これまでにも、数々のイノベーションが見られました。

ゲームAIの進化はそれだけに留まりません。限定された素材の組み合わせで多様性のある表現を可能にするプロシージャル技術(『SPORE』など)。プレイヤーキャラクターの状態によってゲーム展開を自動調節するシステムAI(『レフト4デッド』など)。キャラクターAIでも、より多彩な人間の欲求を扱ったもの(『シムズ』など)。昨今ではサウンド分野にもゲームAI技術が応用され、ゲーム展開に応じた多様性のあるサウンド表現が可能になりつつあります。

こうした中で、キャラクターAIのレベルをさらに押し上げることが確実なタイトルが、E3で発表されました。それがSCEカンファレスのトリをつとめたサバイバルホラーアクション『THE LAST OF US』です。開発スタジオは『アンチャーテッド』シリーズで大成功を収めたノーティドッグ。後日行われたメディア向けプレビューでは、クリエイティブディレクターのネイル・ドラックマン氏によって、プレイデモと簡単なゲーム紹介が行われました。

■ジョエルとエミリーの逃避行、ただしエミリーはAIキャラクター
ゲームは新型ウイルスの大流行で崩壊したアメリカが舞台。人間が次々とミュータントに変貌し、わずかに生き残った人類も食料や武器の奪い合いを余儀なくされています。こうした中で人生の表街道と裏街道の境界線を微妙に踏み外しながら生きてきた中年男のジョエルは、そばかすが残る14歳の少女エリーと共に、新天地をめざして東海岸から西海岸への脱出行に向かうことになります。

無精髭がめだつジョエルは、必要なら人を殺すこともためらわない、決して善人とは言えない性格(のよう)。エリーは死んだ友人の娘で、保護者的な立場となったのも、いわば成り行きから。プレビューでは、まだ二人の関係がどこかぎこちないものでしたが、ゲームプレイを通して二人の絆が深まり、エリーがゲーム内の環境に適応するべく、学習を深めていくと説明がありました。

このように本作ではプレイヤーキャラクターはジョエルに限定されており、エリーはゲームAI(キャラクターAI)によって自律的に学習し、行動します。これまでの常識では、エリーは何らかの特殊能力を秘めているなど、ゲームを進める上で欠かせない存在ではあるものの、基本的には足手まといであり、ゲームバランスの調整弁という役割を担っていました。しかし本作ではエリーに模範となる行動を示しながら、背中で「教育」していくことが、ゲームを進める上で大きな要因となりそうです。

環境にあわせて自己を適応させていく能力は、あらゆる生物が持つ基本的な生存能力です。そのためには・・・

・環境が一定の法則で貫かれている
・個体に情報を収集するセンサーと、外界に対してアクションを行う機能がある
・収集した情報を吟味し、判断するアルゴリズムがある

・・・という、3つの要素が必要になります。エリーにもまさに、この3つの要素が入っているのです。これらはゲームエンジンに基づく共通の環境情報と、ゲームAIの進化の賜物。まさに現世代機ならではのゲーム体験でしょう。

この要素を生かすために、本作ではハンドガンを残弾無制限で撃ったり、銃弾の雨を駆け抜けるなどの超人的なアクションは不可能なようです。デモプレイではアイテムを部屋の中に投げ込んで物音を立て、敵を分断させておびき寄せたり、建物の影に身を潜めながら敵に忍び寄り、首を絞めて気絶させたり、などの光景が見られました。自ら窮地に陥り、派手なアクションを繰り返しながら脱出を繰り返すというネイサン・ドレイクとは異なり、ジョエルの旅はあくまで地味に、地に足のついたものになりそうです。

一方で敵キャラクターも、戦闘中には状況に応じて物陰に身を潜めつつ、互いに連携を取りながら行動し、プレイヤーの残弾が切れると余裕綽々で姿を見せながら近寄ってくるなど、人間らしい動きをしてきます。

ところが敵においつめられ、絶体絶命のピンチを救ってくれたのがエリーでした。絶妙なタイミングでレンガを投げつけ、敵をひるませたり、敵の背中ごしにナイフを突き立てて助けてくれたり。これらすべてがイベントではなく、エリーのキャラクターAIによる自己判断によるもの、というわけです。このキャラクター性を生かすためにも、バトルシステムはリアル系にふられており、残弾制限がきついなど、ジョエルの能力が弱めに設定されていると推察されます。だからこそエリーに対して、プレイヤーは特別な思い入れを持つことができそうです。

個人的にもSCEカンファレンスで初めてデモを見たとき、レンガで援護してくれた時は驚かされました。さらに残弾がつきて絶体絶命になったとき、ナイフで援護をしてくれたときは、そのタイミングの見事さから、思わずプリレンダーのムービーかと見間違えてしまいました。会場での拍手と歓声がひときわ高くなった瞬間でもありました。

■キャラクターAIによるゲームメカニクスをベースにシナリオを制作
ちなみに本作でも『BEYOND:TWO SOULS』と同じく、ゲームメカニクスが先かシナリオが先かという質問を投げかけてみました。するとこちらは明確に、プレイヤーキャラクターとAIキャラクターの関係性であり、それを土台にしたゲームメカニクスが先行したと返答されました。エリーが14歳という思春期の成長過程にある少女であることも、カタストロフを迎えた世界で逃避行をするというストーリーも、すべてこのゲームメカニクスを引き立てる要素として組み込んでいったそうです。

ゲームAIの研究開発にも、かなりの時間が費やされたと語られました。一方でゲームエンジンやビジュアルエンジンは『アンチャーテッド』シリーズで練られたモノをベースに、さらに改良を加えたもの。こうした環境がしっかりと構築され、継承されたからこそ、ゲームAIの開発も順調に進んだといえるかもしれません。

本プレビューではゲームAIのうちキャラクターAIに特化した内容となっていましたが、冒頭で示したとおり、ゲームAIの領域はさらに拡大を続けています。他にどのような要素が存在するかは不明ですが、本作はことキャラクターAIの領域だけでも、アドベンチャーゲームをさらなる高みへと上らせたタイトルになりそうです。特にドラマ性が重視されるアドベンチャーゲームだからこそ、この分野と相性が良いと言えそうです。

もっともグラフィックがリアルだからこそ、ちょっとした行動で「冷めてしまう」リスクもあります。ここでロボットやアンドロイドといった設定に逃げることなく、果敢に現実の人間を描写することに挑戦したノーティドッグの志には、改めて驚かされます。

またキャラクターAIにのみ注目しましたが、HUD類が極限までそぎ落とされた画面レイアウトや、ムービーにしか見えない近接戦闘などのアクションも、非常にレベルが高いものです。一見するとQTE(クイックタイムイベント)にしか見えないアクションシーンは、どのように操作しているのか見当もつきません。

余談ですがノーティドッグはGDCで多数のセッションを持ち、開発ノウハウの多くを公開するというオープンな社風で知られています。こうした姿勢が優れた開発者を呼び込み、新しい価値をゲームに付け加えていくのだとしたら、まさに同社の躍進ぶりも腑に落ちるというものです。ともあれ実際の発売と、おそらく期待できるであろう情報公開についても、今から楽しみにしていきたいところです。
《小野憲史》
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