
2026年7月22日から24日にかけて、パシフィコ横浜 ノースにてゲーム技術者やコンピュータエンターテインメントのエンジニアらを対象とした、国内最大級のカンファレンス『CEDEC 2026』が開催されました。
22日には、ビジネスコンサルタント/プロデューサー/通訳として活動する山下恭子氏が登壇し、イギリスのゲームスタジオPlayground Gamesが開発した『Forza Horizon 6』の文化監修について、どのような実践が行われたかについて語りました。

山下氏は、1997年に株式会社スクウェア(現スクウェア・エニックス)の北米支社であるSquare Soft, Inc.にマーケティングのアシスタントとして入社し、『ファイナルファンタジー』/『キングダムハーツ』シリーズなど30作品近くのマーケティングとPRを担当していました。

その後独立すると、ビジネスコンサルタントや通訳としてゲーム業界を中心に活動をつづけ、今回『Forza Horizon 6』の文化アドバイザー(Cultural Consultant)として作品に関わることになりました。
イギリスのPlayground Gamesは、『Forza Horizon』シリーズに加えて来年発売予定の『Fable』を制作する2チーム体制で制作しており、『Forza Horizon』シリーズは2012年に1作目を発売したあと、アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、イギリス、メキシコを舞台に展開してきたレーシングゲームであり、今回の日本を舞台にした内容は世界中のファンが待望していたといいます。

海外のプレイヤーにとって、日本はいちど行ってみたいと思っている人が多く、「日本の車道を自分の好きな車で走る」という夢の体験ができるところに大きな期待が寄せられていたと明かします。
ゲームスタッフから聞いたところによると、これまでの作品では山下氏のような文化監修を担うスタッフは起用していなかったものの、前作でそういったスタッフが必要であることがハッキリし、今回の作品で初めて正式に文化監修のコンサルタントを迎え入れたとのことです。
内容として、Metacriticなどのスコアは非常に好評で、「日本の雰囲気を海外スタジオが再現できていてスゴイ」という評価・コメントが多いとのことです。

じつは山下氏としても、文化アドバイザーという立場でゲームに関わるのは、今回が初めてのこと。「レアなチャンスだと感じていた」と当時の心境をあかします。
このようなポジションにつけた理由について、ゲーム業界歴が長いだけではなく、海外進出を目指す日本企業(あるいは日本進出を目指す海外企業)に対し、現地の社会習慣やビジネスマナーなど、文化的誤解を防ぐコミュニケーション支援を行なってきたこと、山下氏が昔から車が好きだったこと、これらが講じて、文化アドバイザーとして関わることになったと明らかにしました。

山下氏は今回の自身の役割について、ビジョンを持っているチームがコンセプトやアイディアを形にする中で、ルール違反/価値観の違い/マナーの誤解などによって失礼な表現にならないようにガイダンスしていく形だったと振り返ります。
ゲームや映画などのフィクションの作品では、実在する文化、歴史などを忠実に再現するのではなく、多少のアレンジを加えることが多いです。逆に当事者のコミュニティが傷ついたり誤った認識が広まってしまうというリスクが発生することもあり、面白くするために変えていい部分/変えずに大事にすべき部分、そのバランスが取れているかが重要だといいます。

山下氏は、自身の仕事内容とローカライズとどう違うのかを整理します。
ローカライズとは作ったものや作りかけのものを、対象とするマーケット向けにテキスト・言語・UI・音声などを翻訳・アレンジする作業だと大まかにまとめつつ、文化アドバイザーは「作る内容そのもの」に関わることだったといいます。
山下氏は、ビジュアル・アートチーム全般、ゲームデザイン、サウンドチーム、シナリオ、ゲーム内のラジオ局でしゃべるDJパーソナリティのオーディションなど、かなり幅広い部分に関わったといいます。

山下氏がイギリスへと赴いてプロジェクトに参加した時点で、日本人スタッフ、日本語が話せる人は1人もいなかったと振り返ります。そのため山下氏は、まずは日本の基本的な情報(国土や人口、都市・地方の違い)について、日本語の簡単な紹介や日本文化を中心にスタッフ陣などへ紹介し、実作業へと移っていきました。
お仕事の中ではゲームデザイン、アート、サウンドに関するディスカッション、車文化に関する情報共有をさまざまな素材や資料をあげつつ、チームのみんなで話し合ったといいます。またチームには車好きなスタッフが多く、車やモータースポーツの話題で盛り上がっていたことを語りました。


いちど現場を離れることになった際には「スタジオのメンバーのうち部門トップの数名でいいから、絶対に日本へ行くことを薦めた」といいます。
開発チームが目指していた"日本らしさ"とは、海外から見ただけの日本ではなく、生活感のある世界です。日本人や日本をよく知る人からみても、違和感のない日本らしい雰囲気。それらをふまえつつ、『Forza Horizon』シリーズならではのオープンワールドのファンタジーや楽しさがあることです。開発チームが目指したのは、絵葉書のような風景が美しいランドマークだけではなく、人が暮らす生活感がある世界を描き、再現しようとしていたと山下氏は指摘しました。

そのためにも、山下氏は日本へ直々に向かうことを提案しました。最初のリアクションはすこし弱かったものの、結果的に来日することが決まり、プランニングや道中の案内を手伝うこととなりました。
世間的にいうなれば、ロケ取材と言われるてあろう現地調査のなかで、この主要メンバー8人と山下氏のグループで東京周辺を周り、リストアップした都心の繁華街から郊外、沿岸部をまわり、住宅街や湾岸沿いを回ったといいます。

日本には1週間ほど滞在したとのことで、車に関しては箱根を実際にドライブし、運転するだけではなくタクシー、電車、新幹線などの乗り物系には時間が許すかぎり体験してもらったとのことです。この滞在で山下氏は、観光地としての日本らしさを見せるのではなく、日常の風景まで含めて見てもらおうと目標にコーディネートしていたと話します。
あるメンバーが「いちばん目立つ点は、整然とした混沌の中に、驚くべき静けさがある」とつぶやき、参加スタッフが頷いていたことが印象的だったようで、日本人としては当たり前・当然であることを、海外の方がハッキリと言語化できるくらいにちゃんと感じとろうと努めていることが、山下氏自身にも伝わってきたと明かします。

ゲームデザインに関しては、日本のキャラクター文化がゲーム内のスタンプラリーに影響を与えたといいます。海外では知られていないようなローカルなマスコットキャラクターが非常に多くあり、高速道路のサービスエリアの大きさに驚きつつ、そういったところにさまざまなキャラクターやマスコットが並んでいるのをみて、「日本人はこうしてキャラクターやマスコットとともに育ってきたんだ」とスタッフが実感していたとその様子を語り、その影響がゲームにも随所に現れることになりました。
また東京都内を周っているなかで、コンクリートの建物が多い中で、緑も豊富であることにもスタッフが気づき、ゲーム内でそのバランスが表現されており、日本古来の神社と近代の都会感が同居・混在しているというのも、実際に足を運んで驚かされたポイントだったと山下氏は振り返りました。

その後、山下氏とゲームスタッフとのやり取りは次のフェーズ、「ask me anything」(何でも聞いてね)という形へと移っていったと説明。
週一の定例ミーティングにくわえ、山下氏専用のメッセージボックスが開設され、分からないことや新しいトピックが投稿されるようになったといいます。 そういった分からないこと・新しいトピックに対する回答を準備して、ミーティングで返答するというようなフローだったといいます。

このやり取りの中であがった例として、日本の四季/祭や風習/ショップ名・看板/歴史的建造物・ランドマークなど、さまざまにあがったようです。
特に四季に関しては一言で済ますことができないほど、いちばん頻度高くあがったトピックだといいます。このゲーム内では季節の移り変わりがしっかり描かれており、それが過去作とは違った魅力として描かれています。実際にリサーチした際はワンシーズンしか体験できなかったものの、季節ごとの変化自体が日本のDNAのようなものだと捉え、企画初めからそのように表現することが決まっていたと山下氏は振り返ります。

単に見た目が変化するというだけではなく、季節ごとの風物詩があり、そこに住んでいる人の営みが重なって生まれる情緒豊かな文化であるということです。山下氏は動画や事例を見せ、この"日本の美しさ"をスタッフに伝えていったと話しました。

実際にスタッフが山下氏に質問したという項目を見てみると、ゲーム内でかなりそれらしく再現しているコース・ギミック・建物があったと思い出すプレイヤーもいるでしょう。


また、ゲーム内のマップエリアについては、ネーミングとローカライズのあいだで、日本語表記されたネーミングを英語に訳すのではなく、日本語表記をそのまま地名として表現することに決まったといいます。
ちなみにゲーム内には「大谷」(おおたに)が出てきますが、どうして「大谷」になったかは山下氏も覚えていないとのことです。

山下氏はゲームスタッフと本作に2年半にわたって一緒に取り組んできましたが、スタッフチームが目指していたのは、国外の人々にとってのバーチャルな体験にとどまらず、日本を深く知る人・日本人にとっても違和感がない、ありのままの日本に飛び込んでもらいたいということだったといいます。チームが当初持っていたビジョンをブレさせることなく、目標を達成できたと山下氏は話します。
「田舎道にある一軒家、都内で走るタクシー、お店が詰まっている狭い道を自分の車で恐る恐る走り抜けていく。そういった生活の気配を丁寧に描くことで、日本人らしさが一層際立つような形に出来上がったんじゃないか」
「そうすることでドライブの没入感も増し、単なるドライビングゲームの枠を超え、ドライブそのものを楽しめる体験に仕上がったと思っています」
山下氏は、自身の体験・成果についてこのようにまとめました。















