中国・上海で11月22日に開催された「WePlay EXPO 2025」の『STEINS;GATE RE:BOOT』ステージイベント翌日、Game*Sprakは「科学アドベンチャーシリーズ」のプロデューサーを務める松原達也氏と、同シリーズのシナリオを手掛ける林直孝氏の両名に、最新作についてインタビューする機会を得ました。
本稿ではプロジェクト立ち上げの経緯から、刷新されたキャラクターデザインの意図、さらにはインディーゲームから受けた影響、そして“リブートという形式を選んだ理由”まで、多岐に渡ってお話を伺った模様をお届けします。

『STEINS;GATE RE:BOOT』“15年越しの再構築”。ビジュアルから演出まで刷新される理由とは?
──本日はよろしくお願いします。まず、改めて『STEINS;GATE RE:BOOT』の企画が立ち上がった背景を教えてください。
松原今後科学アドベンチャーシリーズの新作を作っていくとすると、やっぱりビジュアルノベルスタイルのADVゲームになっていくと思うんです。その時に新たにプレイしてシリーズに興味をもったユーザーさんが、少し遡って『シュタゲ』を遊んでみようと思った時に、15年前の作品(原作『STEINS;GATE』は2009年発売)になってしまいます。
しかし「今プレイするにはシステム的にも演出的にもちょっと古いかな……?」という気持ちがありまして。そこで、今の我々が持っている技術でイチから作り直そうと立ち上がった企画が、本作『STEINS;GATE RE:BOOT』です。
──今回『RE:BOOT』で追加される“新要素”についてお聞かせください。
林シナリオ面では、WePlayのステージでも紹介しましたが、“エンディングが1つ追加”されるのが1番大きなところですね。詳細についてはまだ言えないので、続報をお待ちください。
『RE:BOOT』はアニメと融合させた『STEINS;GATE ELITE』のテキストがベースです。オリジナル版と比べてテンポアップし、より取っ付きやすくなっていますね。ちょっとではあるんですが、『STEINS;GATE 0』に関わる要素も組み込まれています。
──……となると、やはり『RE:BOOT』発売前に『0』に触れておいた方が良いのでしょうか?
林もちろん『0』を知っている人はより楽しめるように意識していますが、知らなくても楽しめるのでご安心ください。

──キャラクターデザインの刷新についてお聞かせください。キャラクター服装や装飾がリデザインされている印象を受けますが、ビジュアルを見直す際に意識されたテーマ、あるいは方向性のようなものはありますか?
松原リブートにあたってキャラクターを刷新するというのは最初から決めていたアイデアなんです。
ただ、あまり変えすぎても、これまでの15年間で積み重ねてきた『STEINS;GATE』のイメージから離れてしまってはダメなので、キャラクターデザインのhukeさんには、「イメージは変えないでほしい」というオーダーでお願いしています。
そこでhukeさんからは「イメージは変えないけれども、今の自分のデザインスタイルのビジュアルに変えたい」という逆提案があり、オリジナルのイメージは維持しつつ、相談しながらリデザインしていった感じです。
──ちなみにリデザインされたキャラクターたちの中で、特に目を引いたのは誰でしょうか?
松原全体的に女子キャラは皆可愛くなっているんですけども、個人的にはまゆりがだいぶ変わったという印象があります。より“守ってあげたくなる感”が出ているというか......。
逆に主人公である岡部は、ゲーム内ではあまり絵としては出てこないんですけど、「ちょっとカッコ良すぎじゃない?」ってくらいにはカッコ良くなっていて、主人公感が凄い出たなって感じはしましたね。
林元々岡部って老け顔でしたからね。あんな19歳いるかな?って。
松原“おじさん顔”だったからね(笑)。好きだけど。
林あれも味があって良かったんだけど、今回はかなりカッコ良くなっていますね。


──『RE:BOOT』は背景グラフィックも高精細ですよね。ステージイベントで紹介された、秋葉原ラジオ会館の拡大イラストはすっかり実写だと勘違いしてしまいました。今回の背景イラストを作るにあって、どのような資料を参考にしたかなど再構築するプロセスについてお伺いできますか。
松原幸いなことに、当時『STEINS;GATE』を作った時と、アニメを作った時とで2回ロケハンを行っていまして、その時の豊富な写真資料が残ってたんですね。
逆に、今から2010年ぐらいの秋葉原の資料を探そうと思うと、めちゃめちゃ大変です。残っていた資料頼りではあるんですけど、それらを有効に使って作っています。ただ、写真を加工するというプロセスは踏んでいなくて、全て写真を元に手で描き起こし いているんですよ。
──あれほどのイラストとなると、1枚あたりにどれくらいの時間をかけているのでしょうか?
松原あー、どれぐらいですかね……。複雑なものだと1枚1週間ぐらいはかかることもあるし、簡単なものだと1日~2日で1枚くらいのペースです。
また、これはイラスト制作とは少しズレるのですが、当時の看板を再現するために、既に無くなってしまったお店などの権利者を探すのに結構苦労しています。


──続いてゲームシステムの最適化や演出の刷新についても伺いたいです。現代のプレイヤーにもプレイしやすくするために、どのような改善が図られているのでしょうか?
松原やっぱり現代のプレイヤーはタイパというか、スピード感を重視する傾向が強いと感じています。ストーリー面では先ほど林からも説明したように、『ELITE』をベースにしているので比較的テンポ良く読みやすくなっていると思うんですね。
ストーリーの流れを追うだけならそれで良いんですが、「科学アドベンチャーシリーズ」の特徴として、一般的なADVのように単にプレイヤーに選択肢を選ばせて物語を進行させていくのではなく、作品毎に設定された「トリガー」(『STEINS;GATE』では携帯電話を用いた「フォーントリガー」)を使いながら読み進めてる内に、いつの間にか分岐している作りになっています。
それが物語への没入感を与える一方で、分岐の箇所が分かりにくかったり、気付いたら別のルートに進んでいたり、現代のプレイヤーからするとどうしても分かりにくくなってしまうという面もありました。今作ではそれを解決するために、世界線がいつ分岐したかを後から見れるような画面を用意して、より分かりやすいシステムにすべく開発を進めています。
──ステージでもキャラクターボイスが新たに収録されていると紹介されていましたが、「追加ストーリー」部分のみなのか、あるいは既存のストーリーを含めて全編新たに再収録しているのかどちらでしょうか?
松原既存の音声を流用とかは全くしていなくて、完全に全編新規収録です。
──キャラクターの音声を再収録するにあたり、当時と比べて変化を感じる部分はありましたが?
松原キャストのみなさんにはゲーム版とアニメ版、そして今回のリブートと3回目の収録をしていただきました。みなさんの物語への解像度が上がっていると感じています。
特に今井さん演じる牧瀬紅莉栖は難しい科学用語を使うシーンが頻出します。それこそ原作ゲーム版の収録当時は「何を言っているのか全然分からなかった」そうですが、流石に3回目にもなると、自分が何を言っているのか理解して演じられるって話を仰っていたのが印象に残っています。
──長く応援している既存のファンのみならず、名前は知っているけど……といった新規ユーザーも多くいらっしゃると思います。今回の『RE:BOOT』では双方に向けてどんな体験を届けたいですか?
松原『STEINS;GATE』って、よく「記憶を失くしてもう1回遊びたい」と言われるタイトルなんですが。とはいっても、遊んでいただいたプレイヤーさんの記憶はさすがに消せないし、ストーリーもしっかり覚えていると思うんです。
ですので、既存のプレイヤーのみなさんにはビジュアル面や演出面で、原作とも『ELITE』とも違う体験をお届けできるように様々な箇所を見直しました。一方で、本作で初めてプレイする方には、今時のスピード感重視のプレイヤーでも、まるで“アニメを見ているかのような感覚でゲームを体験してもらえる”ようにチューニングを重ねています。今のところは、どちらのユーザーさんにも楽しんでいただける作品にできそうな手応えを感じています。

──ありがとうございます。今回は中国・上海の「WePlay EXPO 2025」に出展ということで、中国ファンの熱量を実際に体感しての感想も教えてください。
松原中国ではここ数年で、『STEINS;GATE』関連のタイトルやフィギュアがすごく売れているって話を聞いていたのですが、実際に現地に来て想像を上回る熱量を体験できたのは、すごく良かったです。壇上にも熱気が伝わるほどの熱量でたくさんの人が集まってくれて、これからの作品作りにも大変に励みになりました。
林中国の方からSNS等でメッセージをいただくことが結構あったんです。こうして実際に訪れることができて、その熱量を肌で感じることができたのは、すごく感動しました。
「こんなにたくさんのファンが中国にいてくれたんだ......!」っていうのは実感できたので、今後が楽しみです。中国のみなさんにも『RE:BOOT』含め、科学アドベンチャーシリーズ、『STEINS;GATE』シリーズを楽しんでいただきたいなと思っています。
──WePlayも中国をはじめ日本や韓国のインディーゲームが多数出展されていますが、会場に限らずインディーシーンで「アドベンチャーゲーム」が盛況な印象があります。みなさんの作品が与えた影響も多分にあると思いますが、逆に昨今のトレンドで登場した作品から刺激や影響を受けたタイトルはありますか?
松原確かにインディーゲームのアドベンチャーゲームはすごく増えている印象です。僕は直近だと『都市伝説解体センター』とか『ダレカレ』をプレイしました。
特に『ダレカレ』は音の使い方がすごく上手いなと思っていて、その辺りの演出方法というか、エッセンスを勉強させてもらって、上手く今後の開発にも活かしていきたいなと考えています。
──『RE:BOOT』も少なからずインディーゲームから部分的に影響されているんですね。
松原そうですね。
林自分はこのタイトルっていうよりはシーンを全体的に見ています。アイデアがすごく面白い作品がたくさん出ていますよね。シナリオ面、演出面での学びも大きいので、自分も取り入れて今後参考にしていきたいなと思います。
あと、ステージイベントの前後で会場もざっと見たんですが、アドベンチャーゲームの出展も結構あって、中国でもテキストアドベンチャーゲームが結構受け入れられているってことですよね。『STEINS;GATE』も人気ですし。日本のみならず世界中で良い作品が生まれて人気を博しているという意味では、このジャンルにまだまだ可能性を感じるところがあります。
──『RE:BOOT』から少し逸れますが、個人的にインディーゲームの分野に挑戦したい意欲はありますか?
松原会社で作っているので正確に言うとインディーではないと思うんですけど、実は僕が旗振り役になって、既存タイトル群とは違った小規模なチームでゲームを作る社内ブランドみたいなものを立ち上げたんです。
つい先日も、『ZOMBIE防災訓練』というタイトルをニンテンドースイッチ向けにリリースしたばっかりなので、もし興味があれば遊んでいただけると大変嬉しいです。
──ありがとうございます。本題に戻って“リブート”という形式を選んだ以上、今回新たに掲示したいテーマや、今だからこそ語りたい『STEINS;GATE』の“核”についても伺いたいです。
林『STEINS;GATE』は、2010年の秋葉原が舞台の作品ですが、今から振り返るとあの空気感や雰囲気は、“レガシー(遺産)”なんですよね。失われてしまったものもたくさんありますし、2025年にはない当時の秋葉原を、グラフィック面でも再現することによって、当時を知る人には懐かしさを感じてほしい。そして知らない人には逆に新鮮さを味わってほしいなと思います。
レガシーという意味では、グラフィック面だけではなく、シナリオ面でも当時のネットスラングやオタクたちが使っていた言葉とか、失われたものがたくさんあるんですよね。実は今回リブートするにあたって、そのあたりの古めかしいものを変えようかという話も出たんですよ。「今のプレイヤーにもわかるスラングに変えた方が良いんじゃないのか?」って。
侃々諤々の議論を経て、今はあまり使われなくなった当時のネットスラングをそのまま残すことがあのレガシーを今に蘇らせるというか、みんなに知ってもらえることになるんじゃないかという結論に至りました。なので、リブートでは2010年の空気感を今の技術で残すということをかなり意識して作っています。そうしたレガシーをパッケージするということが、僕の中では『RE:BOOT』の核になると思っていますね。
松原自分としても2010年の秋葉原を再現するのが今回のパッケージの大きな意義だと思っています。
冒頭に資料がないという話をしましたが、ネットを調べても2010年の秋葉原の写真って意外となくて、そういう意味でも資料的価値としても残せればというのは自分なりに考えていたテーマです。それもあって背景も精密で写実的なイラストを制作しています。
──それでは最後にゲームを待つユーザーに向けてメッセージをお願いします。
松原当初の予定より発売日は延びてしまったんですけれども、その分作り込んでクオリティの高いものに仕上げるよう頑張っていますので、完成までもう少しお時間をいただいてしまいますが、期待して待っていてください!
林日本の皆さん、中国の皆さん、全世界の皆さんに。来年にはお届けできると思いますので、楽しみにしていただけると嬉しいです。
──ありがとうございました!
両名へのインタビューを通して、『STEINS;GATE RE:BOOT』は単なるリメイク作ではなく、2010年当時の空気とカルチャー(文化)を現代、ひいては未来へ届けるための保存作業に通じていると感じました。
「文化」とは、誰かが残そうとしなければ、時代と共に忘れ去られ、やがて風化していく一方です。筆者もゲーム作品とゲームが紡いだ文化を残すための活動を続ける、NPO法人「ゲーム保存協会」でアーカイブ作業に従事していますが、そうした観点から見ても、“2010年の秋葉原を再現”しようとする意気込みと熱意には大変共感できるものがあります。
今回の『RE:BOOT』によって「オタクの聖地」と呼ばれ、今よりも輝いていたあの頃の秋葉原が、末長く語り継がれるよう、いちオタクとして想いを馳せるばかりです。














