
11月20日に発売された『カービィのエアライダー』は、2003年7月発売のゲームキューブ用ソフト『カービィのエアライド』の続編です。実に22年ぶりのシリーズということで、非常に大きな話題になりました。
ジャンルとしては「レースゲーム」と言えますが、この作品は激しいぶつかり合いが物を言うゲーム性を有し、オンライン接続すれば他のプレイヤーとのデッドヒートバトルを楽しむことができます。格闘アクションゲームに類似した要素が非常に色濃いゲーム内容、前作『カービィのエアライド』が発売された2003年という時期を考慮すれば、その精神性の起点を、日本の伝統遊戯から見出すことができます。
日本という、近代まで大戦争に巻き込まれることのなかった国だからこそ『エアライド』そして『エアライダー』が生まれたと言っても過言ではないかもしれません。
◆21世紀の幕開けは、「ベイブレード」ブームの最中だった!
西暦2001年前後は、ゲーム業界にとっては「3Dグラフィックゲームの始まり」と表現すべき時期でもあります。
90年代半ばまでのドット絵グラフィックに変わり、ポリゴングラフィックのアクションゲームが家庭用ハード向けにも登場しました。そこからまさに日進月歩でグラフィック技術が進化し、より激しく細かいアクション、より華美なビジュアルが実現していきます。
その一方、非コンピューター分野の玩具業界では2001年頃に極めて大きなブームが到来していました。タカラ(現タカラトミー)の開発した『ベイブレード』です。
日本の伝統遊戯であるベーゴマを現代風にリニューアルした玩具は、そのルールもベーゴマとほぼ共通する内容でした。相手のコマを場外にはじき出すか戦闘不能に追い込む、という非常に単純なルールです。コマはカスタマイズ可能で、様々な関連部品を組み合わせて「自分なりの強いコマを作る」という行為を可能にしています。
このベイブレードは、アニメの影響もあって社会現象を巻き起こしました。
◆ベーゴマはエクストリームスポーツだ!
この当時、筆者は高校生。子供向け玩具からは既に卒業していた年頃ですが、それでもベイブレードには素直に「すごい!」と感じていました。
筆者の記憶では、当時から「ベーゴマVSベイブレード」の対決をやってる人がいて、この玩具のターゲット層は小学生男子でありながらも「大人も楽しめる玩具」に最初からなっていました。繰り返しますが、そのルールはベーゴマとほぼ共通。ベイブレードは初めて見るけれどベーゴマはやったことのあるという大人であれば、すぐさま参戦できます。
回転するコマがガツンと相手を場外に吹っ飛ばす。よく考えてみれば、これはエクストリームスポーツと言ってもいいほどの過激な競技性です。「子供が昔ながらの遊びをしなくなった」と言われて既に久しかった時代、しかも21世紀最初の年に、我々はベーゴマという遊戯の大胆さ、豊富なアクション性を再確認したのです。
そして、このベイブレードブームと前後してコンピューターゲーム業界では、よりスピーディな3Dアクションを可能にしたソフト(と、ソフトを起動するためのハード)が登場するようになりました。ベーゴマのアクション性を再確認した日本人が、それをコンピューターゲームに反映しようと考えるのは至って自然の流れと言えます。
◆「ベーゴマの精神性」が新しいゲーム作品を誕生させた!
23年前の『カービィのエアライド』には、現代の目で見ても様々な部分で驚かされます。新鮮さ、斬新さが今に至るまで全く色褪せていない珍しい作品でもあります。
ぶつかり合いを主軸としたアクション、スピード感、そこから発生する爽快感、にもかかわらず操作自体は極めて単純という点もこの作品を「名作」にしている重要な要素。これはまさに、「プレイ自体は簡単だけど勝つのは非常に難しい」ベーゴマの精神性を受け継いでいると言えるのではないでしょうか。

コンピューターがようやくベーゴマのアクションを表現できるようになったのが2000年代初頭、と表現することもできます。
そんな『カービィのエアライド』を現代のテクノロジーで進化させた『カービィのエアライダー』は、発売早々から子供たちを魅了しています。四半世紀近く前のゲームの続編を現代の小学生が遊んでいると考えると、これは奇跡的な現象とも言えます。ひとつのゲーム作品が、押しつけではなく極めて自然な形で親から子へ受け継がれているのです。

しかし、これをさらに広域的に観察してみると、こうした内容のゲーム作品は日本という環境でのみ成立し得なかったのではないかとも考えられます。1941年の太平洋戦争まで世界的大戦争に巻き込まれたことが殆どなく、それ故に風俗文化を戦火の灰にしてしまうことがなかった日本だからこそ「伝統遊戯の上位互換」を実現できた、と捉えるのは大袈裟でしょうか。
◆「昔ながらの発想」がそのまま進化!

『カービィのエアライダー』では、Lスティックを素早く左右に倒すことでマシンが回転し、接近してきた相手を弾き飛ばすアクションを実行できます。まさに、自分自身がベーゴマになっているのです。
「タイムを競う」というよりも「戦う」ことを主眼に置いている内容は前作から引き継がれていますが、グラフィックが23年前よりも大幅に進化したために没入感が段違いに増しています。さらに、2025年は2000年代初頭よりもインターネットがインフラとして普及し、自宅でオンラインに接続して世界中のプレイヤーと腕を競うことができます。

「オレマシン」という、エアライドマシンを自分なりにデコレーションする機能がある点も無視することはできません。これは、かつてのベーゴマに子供たちが自分なりの刻印やデザインを施していた発想と全く同じもの。そう、やはり『カービィのエアライダー』の根本にあるコンセプトは、日本人が少なくとも中世期から大事にしてきた伝統遊戯から由来しているのです。

「伝統」と「テクノロジー」が融合することによる化学反応は、数十年に渡って愛されるゲーム作品を誕生させることを『カービィのエアライダー』が証明しているようです。












