
実写グラフィックで描かれる渋谷を舞台にしたアドベンチャー『428 ~封鎖された渋谷で~』などの総監督などで知られるイシイジロウ氏は、新作に向けた「渋谷実写アドベンチャープロジェクト」を始動したことを明らかにしました。
同じく『428』のシナリオを手掛けた北島行徳氏を脚本に迎え、イシイ氏との再びのタッグで贈るという同作は、“複数の主人公がシンクロし合う物語”が展開するという群像劇システムに加えて、静止画とテキスト主体の演出など、内容面でも過去にイシイ氏らが手掛けた作品を強く意識させるものとなっています。
出演者も既に『街 ~運命の交差点~』の「雨宮桂馬」役で知られるあらい正和さん、『428 ~封鎖された渋谷で~』の「御法川 実」役で知られる北上史欧さんの両名の参加が決定。対応プラットフォームはまだ未定ながら、ゲームの制作に向けたクラウドファンディングを2025年5月28日より、うぶごえにて行う予定です。
■本プロジェクトへの思い
なぜ僕が今、「渋谷実写アドベンチャープロジェクト」を立ち上げようと思ったのか。なぜ大手のゲームメーカーと組まず、個人としてやることを選んだのか。
理由はいくつかあります。
まず、僕は『428 ~封鎖された渋谷で~』を作ったあと、『タイムトラベラーズ』という3DCGによる群像劇アドベンチャーゲームを手がけました。おかげさまで評判も良く、自分としては「群像劇型のアドベンチャーゲームは一区切りかな」と感じていました。
僕が『428』を作ったときには、すでに『街』という偉大な先駆者がありました。当時の自分&制作チームにとって、その続編的作品を任されたのは、とても大きな挑戦でしたし、同時にとても光栄なことでもありました。
どうすれば『街』を超えられるのか――。その思いが、『428』のクオリティに繋がったのは間違いありません。
複数のキャラクターたちの視点を行き来する、まるでパズルのような物語体験。群像劇アドベンチャーゲームは、まさにゲームだからこそ実現可能な、革新的な物語手法です。
自分が『街』からたくさんのものを受け継いで作品を作ったように、きっと誰かが『428』のエッセンスを受け継いで、次の新しい作品を作ってくれるに違いない。
そう思ったからこそ。もし『428』を超えるような作品が出るならば、それは僕じゃない誰かがやるべきだと思っていたし、そんな“後継者”がいつか現れるだろうと、本気で信じていました。
でも――
あれから20年近く経った今でも、そういう作品は現れなかった。噂すら聞こえてこない。
むしろ、ずっと僕の耳に届いていたのは
「『街』や『428』のような作品を待っています」
というファンの皆さんの声でした。
「もう一度、『428』みたいな作品を作ってくれませんか?」
実際、いくつかのゲーム会社さんと、プロジェクトの立ち上げについて真剣に話し合ったこともありました。
でも、いざ話を進めていくと、必ず言われるのは
「もっと売れるものを。もっと“新しい”ものを」
「出演者には、有名な●●さんを起用してほしい」
というものでした。
その考え方は、ビジネスとしてはとても理解できます。
でも、あなたの言っている売れるもの、新しいものは、本当に“良いもの”なんでしょうか?
みんなが待ち望んでいるものなんでしょうか?
本質的なところ──「なぜ作品が愛されたのか、なぜ心に残ったのか」は、まったく理解されていないんじゃないか? ゲームの本質を置き去りにして、外側ばかり整えても、良い作品にはならないのではないか?
そう思い悩んだことは、一度や二度ではありません。どうしても、心の中の疑問がぬぐえなかった。
「ゲームですか?」と眉をひそめるような俳優に出演を依頼する流れには、いつも納得できないものを感じていました。
結局、そうしたプロジェクトはすべて途中で頓挫しました。
振り返ってみれば、実写ゲームを“俳優の人気”だけで成功させた例なんてほとんどないわけですから、当然といえば当然です。
もうそんな企画には関わりたくないーーそう思って、アドベンチャーゲームの制作から距離を置いた時期さえもありました。
誰かが作ってくれれば、僕たちも肩の荷を下ろせる……。そう思いながら、ずっと待っていました。
でも、やっぱり誰も作らない。だったら……
覚悟を決めて、自分たちでやろう。逃げるのはやめよう。ごまかすのはやめよう。
それが、このプロジェクトの出発点です。
そして、せっかくやるなら自分たちが心から「これが見たかった」と思えるものを作りたい。
だから、最初に声をかけたのが、あらい正和さんと北上史欧さんでした。
二人は、『街』と『428』を象徴する存在です。この二人が並ぶ姿を、自分は見てみたい。彼らを主演にした作品なんて、僕たちにしか思いつかないし、誰にも作れません。
ファンの皆さんと一緒に、もう一度あの熱量を、あの空気を体験したい。そのためには、この二人が先頭に立ってくれることが欠かせない。そう思いました。
加えて、このお二人をキャスティングするということは、
「ゲームとシナリオの面白さで真っ向勝負をする!」
という、自分自身の覚悟の象徴でもあります。
だから脚本は、北島行徳さんに声をかけました。
ゲームの形式は、あえてクラシックなサウンドノベル。実写の静止画の上に文字が重なるスタイルです。小説のようなボリュームのテキストを楽しみながら、群像劇としてのマルチサイト構造で、“物語というパズル”を味わっていただきたい。
北島さんとは『428』『タイムトラベラーズ』を共に作ってきた、僕が最も信頼する脚本家です。彼の脚本なら、僕はそれを信じて、監督として全力で形にすることができる。
今回のプロジェクトは、そういう思いで動き出しました。
先日、ある方に言われました。
「イシイさんは、この作品を“作り手”としてじゃなく、“ファン”として作ろうとしてるんですね」と。
たぶん、その通りだと思います。
僕は『街』や『428』のファンの一人として、もう一度あの興奮を、あの衝撃を味わいたいのです。
そんな気持ちが、このプロジェクトを立ち上げさせたのかもしれません。
最後に。
群像劇アドベンチャーゲームの本質は「利他」性にある、と僕は考えています。
どういうことか?
本来、ゲームというのは「利己」を追求するものだと、自分は感じています。勝利を目指したり、得点を稼いだりーーほとんどのゲームは、“自分のために何かをする”ことがルールだからです。
だけど、『街』や『428』のゲームシステムは違います。物語を進めるためには、他のキャラクター達が先に進めるように、障害物を排除したり、誰かを引き合わせたり、時には自分が犠牲になったりと、“利他的な行動”をする必要があるのです。
誰かのために何かをすることで、光明が開けていく。ゲームという利己的なシステムの中で、利他性が機能している面白さ。僕が群像劇ゲームに魅入られている理由は、そんなところにあるのかもしれません。
でも。
これって、現実世界でも真実だと、僕は信じています。
だから、この思いを共有できるファンの皆さま。
ぜひ、皆さんのお力をお貸しください。
そして、皆さんも僕と一緒に“共犯者”になってください。
■本プロジェクトの特徴
“群像劇”としてのゲームシステムの継承
“複数の主人公がシンクロし合う物語”という群像劇システムを、あらためて実写で実現。静止画xテキストによるクラシカルな演出の中で、キャラクター視点が切り替わるマルチサイト構造を再び味わっていただけます。シナリオとゲームシステムを最優先する開発姿勢
過去の実写アドベンチャー成功の鍵は、**「面白いシナリオとゲームシステムを第一義にすること」**にあるとイシイジロウは語っています。本作でも同様の姿勢を貫き、キャスティングやプロモーションは“その後”に位置づけ、作品の根幹であるシナリオやシステムを最大限に活かす開発を行います。“利他的”なゲームデザイン
一般的にゲームは「いかに勝利するか」を目指す利己的な構造になりがちですが、過去の偉大な群像劇アドベンチャーは“利他的”な仕組みをはらんでいるのが特徴です。複数の主人公が互いのストーリーに影響を与えあうことで、世界観に奥深いリアリティと楽しさをもたらします。イシイジロウ氏(左上)、北島行徳氏(右上)、あらい正和さん(左下)、北上史欧さん(右下)