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【飯野賢治とは何者だったのか?第1回】『風のリグレット』「怪物」「花束みたいな恋をした」の脚本家・坂元裕二氏に聞く風雲児との日々―“300万本売れるRPG”の顛末も明かされる

ゲーマーでも彼のシナリオに一度は触れたことがあるであろう脚本家・坂元裕二。彼が飯野賢治と過ごした時間とはどのようなものだったのか――。

ゲーム 特集
【飯野賢治とは何者だったのか?第1回】『風のリグレット』「怪物」「花束みたいな恋をした」の脚本家・坂元裕二氏に聞く風雲児との日々―“300万本売れるRPG”の顛末も明かされる
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しばしの別れ

やがて坂元氏と飯野氏の蜜月も徐々に終わりを迎えてゆく。

「98年に飯野さんとふたりでサッカーW杯の最終予選を見にジョホールバルに行ったんですよ。他にもE3があると必ず遊びにいったり、旅行に行ったりするのがずっと続いていました」

それほど深く関わっていたが、ドリームキャストの『D2』の開発から関係は変わっていった。

「飯野さんの手伝いをしてる自分に葛藤があって、僕自身もあまり元気がなくなっていったんですよね。『D2』を作っているころは僕もWARPに出入りしなくなりました。ちょっと距離ができていて。いつの間にか『D2』を作り始めていて、僕も飯野さんの書いた台本がちょっとできるたびにもらって、リライトしていましたが

「そのころになると、飯野さんはラジオやったり雑誌の連載をいっぱいやったり、いろんな著名人の名前を口にするようになっていて、新たなカルチャーの旗手みたいなスターになってました。WARPに呼ばれなくなっていったし、僕も自分がやりたいことを考えるようになりました」

たまにWARPへ訪れたとき、坂元氏はこんな印象を抱いた。「他人事ながら活気がないかもって印象を受けました。やっぱりWARPが終焉に向かっている感はありました

1999年末に『D2』がリリースされ、2000年以降になると、坂元氏と飯野氏の疎遠が決定的になる出来事が起きる。そのころは飯野氏はWARPの社名を変更し、業態を変えるなど徐々にゲーム業界から離れていく時期だった。

「僕はもう30過ぎてたし、将来のことを心配したりしてたから、華やかな飯野さんに反発心があったんだと思います。感じ悪く突き放すようなことも頻繁に言ったりしてました。その時はまだ『300万本RPG』をやろうという話をしてたんだけど、『D2』の売り上げなどでWARPにその体力があるか? という話もあったと思います。『300万本RPG』の企画もダラダラしはじめて、お互い気まずくなって連絡をとらなくなったんです」

飯野氏と離れ始めたころ、坂元氏自身もビデオゲームとの関わりは徐々に変わってゆく。まだ2000年ごろは「2年間、『ウルティマオンライン』しかやってなかったですね。ひたすら肉焼いたり棒を削ったりしてました」そうゲームに耽溺していたことが語られるが、モラトリアム的な時期は確実に終わりを迎えていた。

終わりを迎えたのは2002年のことだ。坂元氏は完全にビデオゲームから離れ、テレビドラマの脚本家に復帰した。

「そこから7、8年会ってなかったですね」再びテレビ業界に戻ると、急速に飯野氏と疎遠になっていった。

「一回、目黒駅で見かけたけど、『飯野さんだ、懐かしいな』って」坂元氏にとってそのころにはすでに、ゲーム業界のことも、飯野氏のこともまるで夢だったかのように遠くなっていた。「その時、声はかけなかったですね」

「自分は元いた世界に帰ったんだというのがあったから。声をかけると、戻っちゃうような気がしたのかな」坂元氏の口調からは、人生に躓いたモラトリアムを埋めるようにビデオゲームに関わっていた時期が、そのころには区切りがついたことを感じさせた。

再び連絡するようになったのは、坂元氏も飯野氏もゲーム業界から離れてからのことだった。

「Twitterを少しやってたときにやりとりするようになって、また一時期は仲良くしていました。一回、fytoのオフィスにも行ったこともあるんです。2010年か2011年に続けてご飯を食べたりしてましたね。バカ話をしてました。出会った頃とまったく同じです」

ふたりはたわいもない話の合間に、ビデオゲームへの思いを語っていた。「もう一回『本気でゲームを作りたいんだ』という話は、会うたびにしていましたね。というか、僕も『もう一回ゲーム作りなよ、作ってほしいよ』と言ってました」

だが坂元氏の思いは完全に途切れることになる。

永遠の別れ

それは飯野氏が2013年に急逝してしまったからだ。彼の多くの知り合いたちと同じように、坂元氏もその事実に衝撃を受けた。

「びっくりして……高円寺でお葬式があって、そのまま自宅のある目黒まで、飯野さんのことを思い出しながら何時間かかけて歩いた覚えがありますね」

坂元氏が歩きながら思い出したことは、一緒に話をしたり旅行したり、ゲームを作ったりした記憶ではなかった。悔恨の思いだった。

『結局、飯野さんが作れたはずのゲームは作られなかったな』って、悔しい気持ちが強かったです。飯野さんの才能で作れたはずのものがたくさんあったはずで、何でもっとゲームに集中してくれなかったんだ……と飯野さんに怒りながら、泣きながら帰りましたね

坂元氏の悔しさは、飯野氏がクリエイターとしてものづくりに集中していなかったことに向けられる。

「……最初に言いましたけど、そんなに集中してなかったんですよ、たぶん。これは本当悪い意味じゃないんだけど……どういう言葉で表現すればいいのかわからないですけど、飯野さんにとって会社も、ゲームを作るのも、なにか飯野さんの遊びの範疇にあるもので、飯野賢治というキャラクターを飯野さんがプレイして遊んでたんですよね

坂元氏の悔しさは飯野氏の虚像にも向けられる。「飯野さんは……人間的に魅力があって、だから愛されて、幸せだったと思う……でも受け手は勝手だから、不幸でもいいから作品を残してくれよって思っちゃうよね。ほんと勝手な考えだけど」

「やっぱり飯野さんは華々しかったですよ。何かをやってくれそうな感じは常に漂っていたし、いろんな有名人が集まっていた。その人たちとの交流は有意義だったと思う。だけどその分、WARPの仲間たちと一緒にいる時間は減ってしまうよね

「ゲームを作るのは地道にやるものじゃないですか。たとえば坂本龍一さんからメールが来ても無視したり、ラジオ番組もほっといたりしないと作れないんだと思うんですよね」

空白の時期を抜けた先で

「ゲーム業界はキラキラして、そこにいることが楽しかったですよ」坂元氏はWARPを通してビデオゲームに関わったころをそう語る。「お金もいっぱいくれたし、しばらくそれで食いつないでいました。あのとき食わしてもらってなかったら、どうなっていたかわからないですね

「本当に恩を感じているし、楽しい3、4年間でした。今でも飯野さんのことは心から大好きだし、尊敬してる友人です

人生でつまずき、先行きが見えなくなったときにビデオゲームにはまりこむという、暗雲の中でゲームを遊ぶ時期は誰しも訪れるだろう。ずっと抜け出せなくなることもあれば、どこかでモラトリアムを抜け、人生に復帰し、より活躍する人も少なくなくいるだろう。

ただ坂元氏の場合、その時期があまりに濃密だった。一日中コントローラーを握るその先に飯野氏との出会いがあったのだから。

「(2002年に脚本家として復帰したあたりから)ゲームはパッタリやめました。ちょっと『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』をやりましたけど、もうあんなにハマりこむことは起きないと思うんです」

モラトリアムの時期を抜け、坂元氏はずっと脚本家の仕事を続けている。「カルテット」や「anone」、「大豆田とわ子と三人の元夫」といったドラマから、映画「花束みたいな恋をした」など作家性を研ぎ澄ませた作品を生み出し続けている。今年公開された是枝裕和監督の最新作「怪物」の脚本では、カンヌ映画祭にて賞を受賞したほどだ。

飯野氏も2000年代からある種の空白期間から復帰し、ゲーム開発をしようとしていたクリエイターでもあった。だが本格的な復帰は見られないまま終わってしまった。彼がもし生きていれば……ゲーム業界と適切な距離を取りながら、王道としてのゲームデザインをゆっくりと行うような可能性はあったのだろうか?

「天才だったと思うんですよ」坂元裕二氏は飯野氏についてそう振り返る。「次から次へとゲームのアイディアを、僕に毎晩毎晩話して聞かせてくれてね、なんかアラビアンナイトのようでしたよ。だから本音を言うとね、僕はじゅうぶん彼のゲーム楽しませてもらったから、別に世間に出さなくてもよかったよねって思いもあります。そんな人は僕の他にもたくさんいると思うし、その人たちの中に飯野さんの作品が残ってればいいのかもなって」

当時のゲーム業界からスターが生まれたことがすごいことだし、それを飯野さんが引き受けたんだと思うんですよね。ゲームクリエイターに素晴らしい人はたくさんいた。だけど、スターになった人はいなかった。飯野さんはそれをやりきって、本人が作品になりましたよね

坂元氏は飯野氏をそう評しつつ、彼がパブリックイメージ以上の大きな可能性を実現しきれなかったことを悔やむ。それは飯野氏の実像を掴む大きなヒントのように思えた。その実像は、彼と懇意だった飯田和敏氏、水口哲也氏といったクリエイターたちの言葉からより見えてくることになる。

(第2回に続く)

発言を引用した文献

(※1 講談社刊『ゲーム Super 27yearLife』p.290)
(※2 同上 p.279)
(※3 マイクロマガジン出版局 ゲーム批評特別編集『飯野賢治の本』p.108) 
(※4 扶桑社刊『スーパーヒットゲーム学』p.37)
(※5 講談社刊『ゲーム Super 27yearLife』 p.351)


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