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【CEDEC 2012】経験ゼロからでも大ヒット『TOKYO JUNGLE』の制作者が語る、その理由

先日発売され、PS3の新規IPとしてはトップレベルのヒットを記録したPS3ソフト『TOKYO JUNGLE』ですが、なんと制作者は企画当時平均年齢23歳の若者達でした。業界の経験もない彼らがヒット作を生み出した理由を語りました。

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【CEDEC 2012】経験ゼロからでも大ヒット『TOKYO JUNGLE』の制作者が語る、その理由
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  • 『TOKYO JUNGLE』プロデューサー:SCE山際新明氏
  • 『TOKYO JUNGLE』ディレクター:株式会社クリスピーズ片岡陽平氏
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先日発売され、PS3の新規IPとしてはトップレベルのヒットを記録したPS3ソフト『TOKYO JUNGLE』ですが、なんと制作者は企画当時平均年齢23歳の若者達でした。業界の経験もない彼らがヒット作を生み出した理由を語りました。

開始前から多くの聴衆がつめかけ、立ち見も続出した本セッション。まず本作プロデューサーのソニー・コンピュータエンタテインメント山際眞晃氏が登壇し、ゲームの説明もそこそこに、本作のディレクターで株式会社クリスピーズ片岡陽平氏が登壇しました。

まず、片岡氏は「新規IPを立案する際に何を重視するのか?」と会場に問いかけました。「他タイトルを参考にする」「市場の動向を考慮する」「自分の意思をそのまま形にする」といった方法があるとしながらも、「斬新なアイデアを出すことは誰にもできるが、ただ斬新なだけではヒットしない」と語りました。それは、氏が「ゲームやろうぜ!2006」(現:PlayStation C.A.M.P!)に参加した時に学んだことだといいます。そこで、井上陽水氏の「普遍的なテーマ×普遍的なテーマ=普遍的だけどユニーク」という図式を元に「動物×荒廃した世界」というゲームのコンセプトを着想しました。

また、据え置き機で製作するにあたり、氏が感じる現在の据え置きゲームの問題点である「操作、ゲーム性が複雑」「時間がかかりすぎる」「システムやコンセプトがマンネリ」といった問題点を解決すべく「アーケードライクな、1日30分を毎日プレイしたくなるゲーム」というシステムにしたということです。もともとはDL専売を想定していたのでコンティニュー等を設けなかったそうです。

以上より、「斬新なだけでないアイデア」と「未開拓で、他製品と競合する土俵に立たない」という2点が新規IP立案に必要であるとまとめました。

つづいて開発中の様々なエピソードが明らかになりました。片岡氏はPSPソフト『MyStylist』を制作した以外には業界での経験はありませんでした。「未経験というのはマイナススタート」としながらも、常識にとらわれないという逆の強みもあるとしています。では実際にどのようにして開発は進んでいったのでしょうか。

最初の課題はプレゼンです。新規タイトルというのは、どうしても伝わりにくいということで、行われたのが「コンセプトビデオを用いたプレゼン」と「演劇プレゼン」でした。演劇プレゼンは、当時実際に行われた演劇をクリスピーズの吉永氏が実演してくれました。「サバイバル教官」という鬼教官(?)を演じ、映像を用いながらゲームシステムを解説していくという手法です。

これらの手法は第1に「共通体験がなく、情報を伝えにくい新規IPをわかりやすく解説する」ということに主眼を置いているということです。また、演劇プレゼンでは、開発者のキャラクターも知ってもらい、好きになって欲しいという意図が込められているとのこと。こちらのプレゼンが好評で、最終的にはSCEの全面バックアップを受けることができたといいます。

開発については、常にユーザーの目線を重視した制作が行われました。本作には50種以上の動物が登場しますが、その全てを操作できるというのが好例です。業界の常識でいえばコストも上がり、スケジュールもタイトになってしまうため、これだけの種類を登場させるとことは避けられます。しかし、経験がないからこそ常識にとらわれないという強みが発揮された点だといえます。それだけでなく、最弱のキャラ、ポメラニアンを前面に押し出し、交尾というシステムも搭載し、ユーザーの興味を引きつける要素もしっかりと落とし込んでいます。一方で、開発は、制作途中で2Dから3Dに変更になったり、会社が一戸建てのため、夏には電力が足りなくなったりと常に順調に進んでいたわけではなかったというエピソードも明らかになりました。

また、開発以外でも、いかにして魅力を伝えるかということ考えていたとのこと。例えば、PVや販促物は、普通はプロに委託するのが普通ですが、全て自作したということです。特に販促物は片岡氏がゲーム制作を始める前にデザイナーとして活躍していた経験が生きたといいます。さらにソフトのパッケージもSCEから提案されたジャケットを締め切り1日前に、ポメラニアン1匹しかいない画に変更するなど、あらゆる面で制作者の思いを伝えようと工夫を重ねたということでした。

こうした試みが功を奏し、一気に知名度を上げた一方で、話題が先行し、「バカゲー」というイメージがついてしまうことを危惧し、しっかりシステムを伝えるため、「金言、賜りました。」という企画を立ち上げました。これは有名クリエーターに実際に本作をプレイしてもらうことで、本作を正当に評価してもらうというものです。この企画を通じ「日本の業界がマンネリで、新たなクリエーターが出てこないという状況は、トップクリエーターの方がより強く危機感を抱いている」と感じたそうです。

E3に参加した際も、海外のクリエーターから「日本のゲームは、以前はユニークな作品が多かったのに、最近は欧米の真似をしているのに技術が追いついていないからつまらない」と言われたそうですが、『TOKYO JUNGLE』を制作していると伝えたところ、「非常に期待している」と声をかけられたといいます。最後に「20代の新しいヒーローが出てこないといけない」というSCEの山本正美氏の言葉を引用し、「若い力でゲーム業界を盛り上げましょう!」とセッション締めくくりました。

現在は、本作の制作で培ったノウハウを生かし、複数のラインが稼働しているとのこと。近いうちに次回作も発表できるそうなので、今後の活躍に期待しましょう。
《宮崎 紘輔》

タンクトップおじさん 宮崎 紘輔

Game*Spark、インサイドを運営するイードのゲームメディア及びアニメメディアの事業責任者でもあるただのニンゲン。 日本の新卒一括採用システムに反旗を翻すべく、一日18時間くらいゲームをしてアニメを見るというささやかな抵抗を6年続けていたが、親には勘当されそうになるし、バイト先の社長は逮捕されるしでインサイド編集部に無気力バイトとして転がり込む。 偶然も重なって2017年にゲームメディアの統括となり、ポジションが空位になっていたGame*Sparkの編集長的ポジションに就くも、ちょっとしたハプニングもあって2022年7月をもって編集長の席を譲る。 夢はイードのゲームメディア群を日本のゲーム業界で一目置かれる存在にすること、ゲームやアニメを自分達で出すこと(ウィザードリィでちょっと実現)、日本武道館でライブすること、グラストンベリーのヘッドライナーになること……など。

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