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はじまりからTEKARUの音撃参戦まで、まるっと坂本英城インタビュー:前編

坂本英城の曲を聴くと無意識が意識に変わる。何気なくゲームをしている瞬間瞬間に、ゲームに溶け込んでいた旋律がスピーカーから立ちのぼってきて「この曲はいったい誰が作ったんだろう」と私は思うのである。

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坂本英城の曲を聴くと無意識が意識に変わる。何気なくゲームをしている瞬間瞬間に、ゲームに溶け込んでいた旋律がスピーカーから立ちのぼってきて「この曲はいったい誰が作ったんだろう」と私は思うのである。

シリアスなオーケストラ楽曲を制作する一方で、赤いジャージに身を包みロックステージに立つ坂本英城氏。はじまりからここまで、たくさんのお話しをしていただきました。

■1日のエンジンは、1本150円の栄養ドリンクをキャップ1杯で

―――ご存知のかたも多いとは思いますが、改めて自己紹介をお願いします。
坂本氏:ゲーム音楽の制作を中心に、『タイムトラベラーズ』『428~封鎖された渋谷で~』『無限回廊』『勇者のくせになまいきだ:3D』『ポケモン不思議なダンジョン 時の探検隊』などを手がけてきました。ノイジークロークという会社を2004年に設立して、今年8年目になる社長でもあります。

―――ずっと企業に属さずに活動している作曲家というのは大変珍しいですよね。
坂本氏:そうなんですよ。直接先輩や後輩がいない気軽さというのもありますが、1番はなにかおもしろい動きをしたいと思ったときにしがらみが少ないんです。それに会社員だと誰かのハンコを待っている時間がやっぱりあって、僕はその時間が耐えられないんです。

―――ゲーム音楽という専門的な分野だと、フリーの立場で仕事を受けるというのは大変むずかしいことではないでしょうか。
坂本氏:それはもう!駆け出しの頃は「すっげー頑張った!」といえるぐらい頑張っても年収が200万もいかないような状況でした。フリーだと毎月決まった額がもらえるわけでもないので、ギリギリです。リポビタンDをキャップに移してしのぐみたいな。

―――え、それは1本グッと飲んだらちょっともったいないということですか?
坂本氏:そうです!150円なんて1食かけられないと、毎朝とりあえず一口飲んでいました。

―――大学卒業後からのお話もすこしうかがってもよろしいでしょうか。
坂本氏:もちろんです。僕は中学生の頃から、ゲーム音楽の作曲家になるためにやってきていたので大学卒業後、みなさんが知っているようなありとあらゆるゲーム会社に応募をしました。でも、全滅だった。そのデモテープがいま聴きなおしてみるとトンでもなく酷いんです。それもそのはずで、大学4年間のアルバイトで機材を揃えて卒業と同時にフリーで出発だって思ってたんですけど、彼女ができちゃって。

(一同ドッと笑う)

坂本氏:機材のためのお金を彼女とのデートに使ってしまったんです。結局どこに入ったかというと、ゲーム音楽を制作する部署もあるような比較的大きな会社に入りました。

―――そこには何年ぐらい在籍したんでしょうか。
坂本氏:1年ですね。最初はその部署に配属されるのかなと思ったら、「キミには明日からCDを作ってもらう」と言われて。だから、アーティストと交渉してレコーディングスタジオに呼ぶようなことをしていました。

―――レーベルマンのようですね。
坂本氏:そうです。「あれ、自分で曲を作りたかったのに人の曲を作る手伝いをしてる」とも思ったけど、スタジオに入ったりするのが新鮮でした。ボーナスも出る会社だったので勉強させてもらいながら機材を購入して1年ピッタリでやめました。そうして現在に至ります。


■ゲーム音楽とは何か、ずっと焦がれてきたからわかるこたえ

―――これまで仕事をしてきて、転機になった作品というのは。
坂本氏: PS用のアドベンチャーゲーム『Juggernaut 戦慄の扉』ですね。僕にとって初めてのコンシューマタイトルで、26歳のときでした。これ、びっくりすることに4枚組なんですよ。PSで4枚組ってとんでもなくて、60曲ぐらい作ったと思いますね。

―――デビューで60曲とはすごいプレッシャーだったのでは。
坂本氏:当時は音声データをWAVやCDメディアで納品できなかったので、DATで納品していたんです。それでゲームでも簡単に音がでるのかと思っていたら、「それじゃ困る」と言われてしまいました。そこで初めてゲームにはゲームの音の鳴らしかたがあると知って、同業者の先輩にどんな機材が必要でどんな作業が必要なのか、根掘り葉掘り聞いて制作していって。完成後、ファミ通さんのシルバー殿堂入りを聞いて、社内で大盛り上がりしたことを今でも覚えていますね。

―――坂本さん自身、小さい頃は16bitといったゲーム音楽に親しんでこられたと思いますが、作曲家として生音重視のゲーム楽曲を制作されるというのは理由があるんでしょうか。
坂本氏:小さい頃からピアノをやってきているので、クラシックにルーツがあるのが第一ですね。あとは、自分の頭のなかにはオーケストラの音が鳴っていて、それをゲームに落としこむための最良の形がゲームで鳴っている音という解釈に賛同していて。違和感はないけれど、ちょっともったいないなという印象でした。

―――坂本さんはたびたび口ずさめることを重要視されると言われていますよね。
坂本氏:そうです。いわゆる劇伴のような、場面を盛り上げるためだけの音楽はピコピコの3音では絶対表現できなくて、どうしようもないからメロディを入れようとなった。ゲーム音楽のコンサートをするとなるといまだに昔の選曲が多いのはこれが理由だと思います。口ずさめるようなキャッチーな曲が多いので、みんな覚えているんですよね。

―――現在ではいろんなことができるようになって劇伴のような曲も増えてきました。
坂本氏:子供の頃から、“口ずさめて人の記憶に残ることがゲーム音楽の魅力だ”と思いながら育ってきたので、僕は旋律を重要視したい。メロディを作るというのは一番むずかしくて、作曲家の個性がでやすいとも思います。個性が出ないものをやるのであれば、坂本英城がやる必要もなくなってしまうんです。

―――オーケストラの魅力というのはどのへんにあると感じますか?
坂本氏:その楽器しか使えないという制約があるので、音色の勝負に魅力があります。デジタル系の音楽だったら、いくらでもおもしろい音を入れて「あっ、これって新しいな」ということもできるわけですけども、たとえばクラシックでいうと、オーケストラはあの編成で何千人、何万人という人たちが過去にいろいろなアレンジを試みているんです。僕はそのなかで勝負がしたい。何年も何年も不変的に積み上げられている場所で差別化を図って個性を出してみたい。そう思っています。


■前向きに光り輝くバンド、TEKARU

―――「ファンタジー・ロック・フェス2012」に続き、「音撃~Game Sound Impact 2012~」への参戦が決まりましたね!2回目のステージということでTEKARUについても掘り下げてうかがいたいと思います
坂本氏:はじまりは、植松さんから「プログレなら坂本さんだろう」とお話しを頂いたことにあります。僕、プログレに対して知識もないのに何故と思っていたら、「1曲75分の曲を作る人のいったいどこがプログレじゃないんですか!」と逆に言われてしまって(笑)。

―――行動もプログレッシブというわけですね。
坂本氏:ちょうど去年の10月頃だったので、社内は大混乱ですよ。みんな忙しい年末に「坂本さんが何か言い出した!」って。社内でバンドやりたいねという話は昔からあったんですが、植松さんに火を点けてもらう形となりました。

―――TEKARUといえば、赤いジャージが印象的ですよね。ツイッターの写真や「ノイズなやつら。」で舞台裏を見ても、誰がTEKARUだかすぐわかる。
坂本氏:このバンドに掲げていたテーマというのは“なんでも3秒で説明できること”でした。たとえば、ジャージを着てメガネをかけたヒゲの人のバンドといえば「ああ!」とわかってもらえるような。

―――TEKARUというネーミングも坂本さんが?
坂本氏:そうです。SCEさんから発売されたサラウンドスピーカーのPVでのことなんですけど、その動画の僕の顔が尋常じゃないほどテカってて。動画サイトで検索してもらうとわかるんですけど、ほとんどのコメントがスピーカーに対してじゃなくて僕の顔のテカりについてなんですよ(笑)。これはビジネスにしなければいけないと思って作ったのが“テカり取り紙”。このあぶらとり紙を経て、平均年齢35歳のおっさんたちは当然顔がテカっているだろうということでTEKARUに決めました。

―――すごい経緯ですが、短くもキャッチーなのがいいですよね。
坂本氏:ピカピカ、前向きな印象があっておもしろい。それにカッコイイとカッコワルイの絶妙なバランスがあるなと思って一瞬で決めました。

―――TEKARUというのはプログレ重視のサウンドを目指していくんでしょうか。
坂本氏:前回のイベントではそうでしたけど、TEKARUでこだわっているのはロック。ライブでは、演奏に同期された仕込みの音源などは一切使わずメンバーの実際の演奏だけで勝負するというのも絶対です。先ほど話にあったように、わりと知的な音楽を好んで制作してきていますが、下町育ちなのでどこかでそういうガラじゃないと思っている部分もあるんですよ。だから、優等生ぶっているとたまに破壊衝動に駆られることがあって。窓から歩いている人めがけて靴をなげてやるみたいな。そういう時あるじゃないですか。

―――ああ、ありますあります。

一同:あるんですか!?

―――音楽のなかでの話ですよね(笑)
坂本氏:というわけで(ビックリしながら)、清楚な女子高生が放課後になると駅のトイレで制服を脱いで化粧もして、そのまま六本木の街に繰り出すみたいなイメージなんです。はけ口じゃないですけど、普段とは違うことを思う存分できる場所になっています。

―――納得の振り幅ですね。
坂本氏:付け加えると、ステージ上ではもう楽器を叩き壊してやるみたいな“完全に人を見下している”スタンスなんです。お客さんに対しても、対バンにしても「うわぁ、アイツら、来ちゃった」という“感じの悪いバンド”を設定として・・・あっ、設定って言っちゃいましたが、だからステージでは「お前ら最後まで見ていけよ!」って言っているのに、物販に来てくれた人には「ありがとうございまぁ~す(笑顔)」となってしまう。

(一同、ドッと笑う)

―――そこでしか見れないものがあるというのはいいことですよね。
坂本氏:おもしろいのがTEKARUの1stアルバムとライブの音を聴き比べてくれた人がいたときに、CDのほうが音の密度が少なく聞こえると言われたことがあるんです。CDのほうが音を足したりいろいろやっているので、それはつまりその場の雰囲気だったり目から入ってくるパワーっていうのがライブにはあるということですよね。


■「音劇~Game Sound Impact 2012~」への意気込み

―――では・・・服装について。

(一同、ドッと笑う)

―――夏フェスに赤ジャージはちょっとツラいかなと思っているんですけども。
坂本氏:暑いので最初、肌に直接ジャージの絵を描こうという話だったんですよ。でも、いろいろ問題があるよねってなって。

―――汗で溶けちゃいますよ!
坂本氏:大人だからそれがダメなんだってことはさすがに気付くじゃないですか。なのでTEKARUのTシャツでやろうかと言っていたら、今回いただいた質問のなかに「白の体操着は着るんですか?」とあったので「そっか~、ここ妥協しちゃだめなのかなあ~」って、さっきレーベルマネージャーのURUと真面目に打ち合わせをしました(笑)。

―――以前、ジャージをちゃんとした業者に頼んで作ってもらったという話を聞いていたものですから。
坂本氏:そうなんですよ~。上履きもちゃんとしたところから買って、白のくるぶしソックスまでこだわってやっているなかでTEKARUのTシャツに逃げていいのかっていう。

―――夏フェスといえばイベントTシャツなので違和感はないですよね。
坂本氏:イベントTシャツじゃあたりまえすぎますよね。僕らは逆に違和感がなくちゃだめなんですよ・・・(URUに目をやりながら)体操着買おっか。

(URU、すかさずハイと答える)

坂本氏:お願いします。帰ったらすぐ、間に合うかな。

(URU、すかさず間に合わせますと答える)

坂本氏:赤白帽についてはいつも帽子をかぶってるベースのKABURU(いとうけいすけ氏)と相談しなきゃいけないですね。帽子の上に帽子をかぶるのか、という相談を。それは当日のお楽しみということで・・・。

―――今回やる楽曲についてはいかがでしょうか。
坂本氏:まずは、『真・かまいたちの夜 11人目の訪問者』から「悪夢」と「かまいたちの夜」をMIXした「真かまいたちの夜 Nightmare 2011 MIX」を演奏します。そして、『428~封鎖された渋谷で~』から「茄子」。

一同:おぉ~!

坂本氏:「かまいたちの夜」は誰もが知っている有名な曲なのに誰も演奏していないんですよね。新曲最後は『タイムトラベラーズ』から「Dr.Schrödinger, tell me please? (Mikoto's Theme)」で、僕が歌います。いま必死に英語を覚えているところです!

―――なんと!『タイムトラベラーズ』はTEKARUのメンバーも演奏に参加されていますよね。
坂本氏:そうなんですよ。みことのテーマはピアノがIRU、つまり僕。ギターがHIKERU(浅田靖氏)、ドラムもSUBERU(川越康弘氏)が演奏しているのでゲーム中のサウンドとほぼ同じアレンジでやる予定です。持ち時間が1時間なので、これ以外もたくさん演奏しますよ。

―――名残惜しいですが、最後にライブに向けて意気込みをお願いします。
坂本氏:キャラ設定でいえば、「できれば出たくない、暑いから」としょうがなく出ている雰囲気を出したいところですが、みなさん熱射病にはならないように(笑)。夏の炎天下のなか、真昼間から「かまいたちの夜」を聴くというのもおつなものだと思いますので、8月4日はぜひ聴きに来てください。

―――ありがとうございました!


次週公開予定の後半では、8月8日発売の『タイムトラベラーズ』のサウンドトラックについてのインタビューを掲載します。こちらも見所満載となっていますのでどうぞお楽しみに。

(C)2012 noisycroak Co.,Ltd.all rights reserved.
《きゃんこ》
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