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【OGC2012】「天地人は揃った、今こそ世界を獲る」gumi国光氏が語る日本の強み

国内の高収益を背景に一気に世界市場への進出を進める日本のソーシャルゲームメーカー。『任侠道』『海賊道』『騎士道』といったソーシャルゲームを提供するgumiもその先頭を切る一社です。同社の國光宏尚社長がOGC2012にて世界進出について語りました。

ゲームビジネス 開発
国内の高収益を背景に一気に世界市場への進出を進める日本のソーシャルゲームメーカー。『任侠道』『海賊道』『騎士道』といったソーシャルゲームを提供するgumiもその先頭を切る一社です。同社の國光宏尚社長がOGC2012にて世界進出について語りました。

急成長中のgumiを率いる國光宏尚氏。軽快で柔らかな語り口で高い野望を語る。


日本のソーシャルゲームの強さについては今更振り返る必要もないかもしれません。2011年の市場規模は2000億円を超え、2013年には5000億円以上に成長すると予測されています(三菱UFJモルガン・スタンレー証券)。これは家庭用ゲームを超え、全てのエンターテイメントの中でも有数の規模になります。各プレイヤーの成長も続いていて、既に利益ベースではジンガを圧倒する規模に成長しています(ただし時価総額ではジンガが強い)。

僅か数年で急拡大するソーシャルゲーム市場市場規模は主要なエンターテイメントの中でも上位に位置する


MobageやGREEには既に計1500タイトル以上のソーシャルゲームが提供されていますが、この競争の激しいレッドオーシャンであることが良い方向に働き、競争の結果「SAPのARPUは5倍くらいに伸びた」(國光氏)そうです。逆にジンガのARPUは停滞しています。ディー・エヌ・エーが買収したngmocoでは、頻繁なイベント施策やチューニングで売上が伸びていて、日本のやり方が世界で通用することは証明されています。

各社の時価総額は見劣りするが収益性ではピカイチ


■モバイルソーシャルの開拓者

國光氏は数カ国をバックパッカーとして放浪していた時期があり、その後に日本に戻りアットムービーという会社を設立します。最初は映画やテレビ番組の受託制作を行なっていたそうですが、ゲームと同様過酷な世界で「ほんとに奴隷みたいな感じで、それに嫌気がさして、"言われた仕事は全部断る、自分たち提案以外の企画はやらない"というポリシーにしたんです。すると意外に潰れず評判になって良い企画を何本もやらせてもらったりして」。國光氏が感じたのは面白さのコアの重要性で「それがしっかりしていれば出口は余り関係ない」ということ。ただ、テレビ局にはしがらみも多く、それでモバイルの世界に来ることになります。

そうして設立したのがgumiです。同社では世界初のモバイルゲームプラットフォームを2006年後半に立ち上げます。その頃、ちょうどフェイスブックがオープン化。次はモバイルだと考えます。「完全に世界初、これは業界騒然やろと思って僕らもオープン化したら『シーン...』全く誰も反応してくれないんです」と國光氏は笑います。それで自分達でゲームを開発するようになります。ただgumiというプラットフォーム自体は余り上手くいかず、ミクシィのオープン化、そしてMobage、GREEというプラットフォームの開放が飛躍のきっかけになります。

gumiのバックグラウンドは海外・エンターテイメント・世界初のモバイルソーシャルゲームプラットフォーム


主にグリーで展開する主力タイトルはどれもヒット。EAと組んだ『FIFA』は"2時間だけ"『ドラゴンコレクション』を上回り、そのスクリーンショットは大切に取ってあるとか


■ソーシャルゲームの社会的意義とは

当初は「いろいろぶっちゃけます!ヒットゲームの作り方と、世界で勝つための7つの方法」というタイトルで予定されていたこの講演。昨今のソーシャルゲームを巡る議論を受けて軌道修正がされます。

「物が溢れている現代、生きていく為に必要なものはもはやありません。しかし人間を人間たらせるものがエンターテイメントです」國光氏が語ったのはその社会的意義です。決して必需品ではないけれど、少し人生にプラスを与える、精神的に豊かになる、誰かと繋がれる、そうした貢献がエンターテイメントには可能です。

無論そうした貢献があるからといって何でも許されるわけではありません。様々な議論がされ、規制も話題に上りますが、國光氏は「業界として良いものはいい、悪いものはダメという議論は早急に進めて実行していなければいけない」と述べました。

■インターネット独自のコンテンツ

國光氏は歴史を振り返りながらソーシャルゲームのビジネスを説明します。

「メディアの歴史を振り返ると、テレビが無料で放送されるようになった映画業界は動揺して、彼らのコンテンツをテレビには提供しないようにしました。それが逆に映画ではカバーできなかったプロレス、野球、ニュース、バラエティといった番組がキラーコンテンツになっていったんです」

どんなメディアにもオリジナルのコンテンツが必要。インターネットにはソーシャルゲーム


これはソーシャルゲームも同様かもしれません。これまでのインターネット産業は他のメディアで流通したコンテンツを持ってきて成立させてきました。「コンテンツ作りには凄いパワーが必要です。コンテンツ産業がインターネットを嫌ってきたのは、そういうコンテンツにタダ乗りしてきたところにあるんじゃないかと」(國光氏)。しかしソーシャルゲームはインターネット発のオリジナルコンテンツなのです。

そのビジネスモデルも映画と比べると健全ではないかと言います。「映画は0号試写みたいなので初めて全編を通して観ます。でも"うわー・・・"みたいな絶望感を味わうコトってあるんです。それぞれのパートはいいのに繋がったら絶望的、というようなことが。でももう遅いですから。宣伝チームがいかにお客さんを騙して売るか、内容の違うトレイラーを作って何千円かを払わすんです。お金を払う前に内容は知れないですから」

それと比較するとソーシャルゲームのビジネスモデルはお金を払うかの選択権がユーザーにあります。基本無料ですから、ダメだと思ったらいつでも辞めればいいだけです。

作り手は大変です。しかし反応も明確です。「ユーザーからのフィードバックを受けるのは辛いけど有意義なものです。テレビなんかだと、聞く手段が限られます。友達は大抵褒めてくれるし、2chはボロカスかめっちゃボロカスの2種類ですからね(笑)。その点、ソーシャルゲームは露骨にユーザーの反応を知ることができます」

■天地人が揃った日本のモバイルソーシャルゲーム

景気は回復せず、少子高齢化が進み、政府債務は膨らむ一方の日本。「ゲームだったら確実にリセットしてる、ここでセーブして続ける奴はマゾ」(國光氏)というくらいの状況です。しかも日本人は貧しくなる事に楽観視し過ぎではないかと警鐘を鳴らします。「自分はバックパッカーで色々な国を見てきました。貧しくなれば病院に行けなくて、その場で死んでも仕方ない。日々食べるものも僅かしかない、当然遊びに行く余裕はないし、犯罪も多い」そんな状況にならないためには「何もない日本、生きて行くためには輸入が必要。その為には外貨を稼ぐ輸出産業が決定的に必要なんです」。

ここで國光氏が述べたのは孫正義氏、タイムマシン経営という日本のインターネット産業の呪縛です。海外のトレンドを輸入して日本で展開する。時差を利用したビジネスモデルがタイムマシン経営です。こうして成功した最も顕著な例であり、日本のインターネット産業のナンバーワンが"ヤフージャパン"です。國光氏は言います「彼らは"ジャパン"、米国進出もアジア進出も考えられない。日本のインターネット産業はこの呪縛を乗り越えて挑戦していかないと未来が無いんです。野茂英雄や中田英寿は"日本を裏切るのか"と言われながら挑戦をし、沢山の若者がそれに続きました。その中で新庄剛志のようなお調子者も行って、なぜか成功してみたり。そんなお手本になれる"新しい目標"が何より必要なんです」

そして日本のモバイルソーシャルには"天地人"が揃っていると言います。"天"とは世界中がモバイルになるという潮流です。i-modeからの流れ、ソフトバンクが火中の栗を拾ったiPhone、そしてMobage・GREEのオープン化。今というタイミングに向けて全てが揃いました。"地"は日本という市場です。過去、ベンチャー企業は調達能力に勝るシリコンバレーに後塵を拝してきました。しかし今は日本市場の圧倒的な収益性と海外から進出しづらい特殊性が優位に働きます。最後は"人"。モバイルの長い歴史によって日本にはモバイルのクリエイターもエンジニアも豊富に揃っています。

「時の利、地の利、人の利、全てが揃ったまたとないチャンスです。ごちゃごちゃ言っても仕方ありません。誰かが旗を立てて、日本人もまだまだ出来るということを証明しましょう」と日本に続く海外での成功を誓っていました。
《土本学》
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